第7話 魔物の暴走

ラースはクレインと、辺境伯の騎士たちと共に森へと向かった。

カバンには、最低限の医療道具が入っている。


「ラースさん、絶対に私から離れないで下さいね。私の傍に居る限り、あなたには爪の先でも触れさせません」

「分かりました。ありがとうございます」

「では、行きましょう」


 ラースたちは森へ入って行く。

御神木までの道は、それなりに舗装されている。


 本来であれば、ここには魔獣は出て来ないはずである。

神獣の加護によって、魔獣の行動範囲が制限されているのである。


 そして、早速魔獣が現れた。

ゴブリンの群れである。


「ラースさん、下がって! はっ!」


 クレインと騎士たちが魔物を一掃する。


「大丈夫ですか?」

「私は大丈夫です。でも、魔物が凶暴化しているように思えます」


 暴走した魔物はラースでもどうすることもできない。

魔獣と魔物には明確な区別があり、ラースの医療が通じるのは魔獣である。


 魔獣は、人類の敵でも味方でもない存在。

ちゃんと絆を育めば、魔獣は一緒に戦う仲間となる。


 一方で、魔物は人類の敵である。

どうやっても、彼らは人類の味方になることはない。


 本来であれば、もっと落ち着いてこちらを攻撃して来る。

しかし、今の魔物は明らかに暴走状態にあった。


「それはまずいかもしれませんね。先を急ぎましょう」


 再び、御神木へと向かって歩き始める。

御神木までは、数十分ほどだろう。


「もう少しで御神木です」

「分かりました」


 そこまでも、魔物はかなり出現した。

それも全て、騎士とクレインが討伐してくれた。


「この先を抜ければ御神木です」


 森を抜けると、そこには開けた場所があった。

そこには、大きな木が生えていた。

確かに、これは御神木だといえるだろう。


「クレイン様! あそこに倒れている獣がおります!」


 騎士の1人が気づいて声を上げる。


「あれは、フェンリル……」


 そこには、フェンリルが横たわっていた。

以前見た子供ではない、大人のフェンリルだ。

その体は大きく、三メートル近くある。


 ラースはそのフェンリルに近寄った。


「ラースさんが治療に集中できるように彼女を守るぞ!」

「「「はい!」」」


 クレインと騎士たちは、ラースを囲むようにして魔物たちから守る態勢をとった。


「ちょっと、診せてね。大丈夫、絶対助けるからね」


 フェンリルは傷だらけで、至る所から血を流している。

呼吸も浅くなって来ているので、危険な状態に変わりは無い。


《医療魔法・スキャン》


 まずは、フェンリルの状態を確認する。


「前足が折れてますね。それにこの傷……」


 ラースはその傷に違和感を覚えた。

しかし、今は治療を優先させる。


「痛かったよね。すぐ良くなるよ」


 医療セットの中から消毒液を取り出し、傷口を消毒する。

ラースの治療は魔法と医療の合わせ技である。


《上級治癒》


 フェンリルに治癒魔法をかける。

治癒魔法の中でも、上級治癒は高位なものになるので、使える人間はそう居ない。


 魔法で、傷口はみるみるうちに閉じて行く。


「免疫力が下がってますね」


《医療魔法・調剤》


 免疫力を高める薬を魔法で生成する。


「ちょっと、痛いかもだけど頑張ろうね」


 そう言って、フェンリルを撫でる。

そして、注射器で薬を注射した。


「うん、もうこれで大丈夫だよ。骨折の方はまだ完全じゃないから無理しちゃだめだよ」


 こうして、ラースの治療は終了したのだった。

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