第2話 現行犯

 交通事故こそゼロだったが、子供たちの死亡事故は起きた。

 隆の級友の弟は、川で流されて死んだ。下校途中に河原で遊ぶのは、子供たちの大きな楽しみだった。しかし、流れは急で、危険な場所も多かった。ひとつ間違えば命を落としかねなかった。


 学校が最も神経質になっていたのは、夏季の水難事故だった。プールなどないので、子供たちは谷や川で遊んだ。天然のプールである淵や、流れをせき止めた臨時のプールを水遊びの場所と指定。それ以外は水泳禁止区域とされた。


 その夏も洋一と修司、隆は千足村の子供たちを引き連れ、I川まで遠征していた。もちろん水泳禁止区域である。

 隆たちが魚を追っていると、見張りに立てていた下級生が何か言っている。

「先生がおる!」

 隆が下流を見ると、男の教員がいた。暴力教師として名高く、子供たちは声を聞くだけで震え上がっていた。

 教員は見回りにきていたのだ。隆も洋一も修司も覚悟を決めた。決定的な場面を押さえられてしまった。この上は、どんな暴力を振るわれても仕方がなかった。


 教師は苦虫を噛みつぶしたような顔で、隆たちをにらんでいた。教師の後方を見ると、よその地区の子供が数人、突っ立っていた。

(あいつらも、見つかったんか)

 隆は仲間が増えた分、殴られる恐怖、痛みが軽減したような気がした。しかし、この時は不思議に無罪放免となった。

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