続 村の少年探偵・隆 その7 美談

山谷麻也

第1話 集団登校

 徳島県の田舎で集団登校が始まったのは、昭和も40年近くになってからと、隆は記憶している。

 それまで、銘々めいめいが登校していた。隆の級友には手から血を流し、Yシャツの胸元を黄色く汚して登校した者がいた。

「途中、崖をよじ登って、カラスの卵を吸うとったら、親が帰ってきて、襲われた」

 と語っていた。中には、飛んだ道草をする子供もいたのである。


 集団登校になってからは、子供たちは整然と並んで歩いた。ただ、通学路にクルマが通る車道はごくわずかだった。それに、車道を通るのは路線バスくらいだった。

(何のために一斉登校しているのだろう)

 多くの子供たちは腑に落ちなかった。学校としても、交通安全の機運を受けて、半信半疑で取り入れた制度だったに違いない。


 ところが、ちょっとした事故が起きた。隆のグループに、水たまりで転んだ子がいた。おっちょこちょいがふざけていたもので、洋服がずぶ濡れになった。

 学校に着くと、隆は校長からいろいろと訊かれた。隆は水たまりで転んだだけだと答えたが、校長はもっとスリリングな出来事を期待していたようだった。

「よっしゃ。川に転げ落ちたのを助けた、ということにしておこう」


 校長は全校集会で、この話を例に引きながら、集団登校の効用を強調した。

「小杉君の班では、もう少しで大変な事故になるところでした。みんなも安全な登校を心掛けてください」

(歴史はこんな風に造られるんだ)

 隆も片棒を担いだようで、わだかまりが残った。

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