第57話 違和感
【前話までのあらすじ】
4賢者のひとりミーアの村ラナを訪れたライスたち。そこでライスはアシリアに自分の魔法を披露した。なんとそれはアシリアと静謐の魔人ダリを媒介にした魔法であった。火属性しか使えないライスに新たな可能性が見えた。
【本編】
湖の輝きをみたミーアは驚嘆していた。
「これはアシリア様がやられたのですか.. さすがエレンフェ様の妹様です」
「え、いや、これはライスが..」
アシリアは口ごもって言ったがミーアの耳には届いていなかった。
騒ぎもひと段落し、家に戻るとミーアは今回ライスたちを家に招いた意図を説明した。
意外にもそれはエレンフェからの命令ではなくミーアの独断であった。
「実は私は今の現状に反対なのです」
唐突な入り方だった。
「えっと、どういうことなの? ちょっと唐突すぎてその現状がよくわからないんだけど」
「あっ、すいません。あなた方は、カンペプロのレビンに会われたと思います。実は私もあの者と遠くない考えなのです。もともと私は結界を張ること自体に反対でした。ですが、オルサもカランドも時が経つにつれ人間への不信感が強くなってしまいました。私はどうしてもそこまで人間を遠ざける気にはなれませんでした。だって、私の母も私自身も人間を愛して家族を持ったのですから」
「あのトンガリ頭の人はどうだったの?」
「バルクはどちらでもいいと..」
「そうなんだ」
「あの.. リジ様はもしかしてヴァン国コーグレン家の末裔の方ですか?」
「あら、よくわかったわね」
「はい。コーグレン家の方には良くしていただきました」
ミーアの話すコーグレン家が700年以上前のコーグレン家だと思うと奇妙な感じがした。
「ところで、もしも結界に反対だったなら、なぜあなたはリキルス国から出て行かなかったの?」
「 ..実は私たちの兄弟の中でリキルス国に来なかった者がひとりいたのです。私は家族を連れてその者と行く選択もあったのです。『家族を持つ者には旅は辛いものになる。独り身の自分とは違う。長としてどうあるべきか考えるべきだ』その者にそう言われました」
「えっと.. どういうことかな?」
若いライスには今ひとつピンとこなかった。
「上に立つものは思慮深く考えるべきだってことよ」
「ほぉ、なるほど。さすがリジはヴァン国の次期領主だね」
「あたりまえよ、フフン」
あまり物事を深く考えないライスにいろいろと解説交じりに教える博識のリジ。2人はなんだかんだと凄くバランスがいい。
「ところで、私たちはさっきエレンフェさんから国の成り立ちと彼女の関りを聞かせてもらったわ。だけど、ひとつ大切な事を聞きそびれたの。アアルク王はどうなったの?」
「アアルク王は6年前..あっ、えっと60年前..」
「あっ、こっちの年数で話していいから」
「はい、アアルク王は6年前に亡くなられました」
やはり死んでいた。リジは1/10の時の進み方だと聞いた時に生存の可能性を期待したのだが、その可能性は早くも断ち切れてしまった。
「死因は病気とか?」
「 ..アアルク王は結果的にエレンフェ様を騙してしまったことを悔やんでいらっしゃったようです。それを苦に自害なされたと聞いております。」
リジは不自然さを感じた。あれほど娘のレミンを愛していたアアルクが自ら命を絶つものだろうかと。
「墓はどこにあるの?」
「私たちは知りません。カランドからアアルク王の死の知らせを聞くと、直ぐにエレンフェ様がアアルク王を埋葬なされたのです」
「カランド..って、あのエレンフェさんを『母さん』とよんでいた人?」
「はい。 ..またそのようなことを言っていたのですね」
ミーアはとても残念そうにうつむいた。
「ねぇ、カランドってミーアさんよりかなり年上のお兄さんだよね?」
「いいえ、カランドは私たちと同じだけの時を生きています。彼が私たちより年上に見えるのは、彼が結界の外に出た時に、何百年分もの時の渦に巻き込まれたからです」
「じゃ、結界外にでると歳をとってしまうというのは本当なの?」
「はい。本当です」
それを聞くとリジとライスは動揺した。
「私たちも知らなかったのです。結界内と外に時間の差異が生じていることなど。あれは8年ほど前でした。この国でも世代交代が進み、次第に国から外に出たいという者たちが声をあげ始めました」
「それがリフリ村の人々?」
「はい、そのとおりです。賢者の私たちは、外に出たいものがあれば自由にすべきだという考えでした。そこで、60年の間に世界がどのように変化したのか、危険はないかをカランドが先んじて見て来たのです」
『世界はハーフエルフの血を忌み嫌っている』
それがカランドが持ち帰った答えでした。
時の流れの渦に600歳の年齢を重ねたカランドは唯一の出口であった『二枚貝の出口』を破壊してしまった」
『誰一人として外に出てはならない。一族を守るためだ』
「カランドの考えは180度変わり、オルサもその考えに従ったのです。思えばその頃からカランドは人が変わったようになってしまいました」
大人しく話を最後まで聞いたリジは、ミーアの話を否定した。
「それは、嘘っぱちだわ! 確かに全てのエルフ、人間、ハーフエルフには見えない壁がある。それは否定しない。でも、ハーフエルフだからって世界が忌み嫌ってなんかいない! だって私は、私の先生キース・レックを父のように尊敬しているもの!」
「 !! リジさん! 今、キース、キースといったの?」
「そうよ。私の先生はキース・レック。誇り高きハーフエルフの剣士なんだから!」
リジは胸を張って言った。
「なんてこと.. そのキースは私たち5人兄弟のひとりなのよ」
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