第29話 乗船許可証

【前話までのあらすじ】


アシリアを傷つけた『深淵の手』ヴァルドルに怒りをぶつけたギガウ。しかしヴァルドルはチャカス族の弱点を知っていた。アシリアを安心させるために笑顔を見せ、無理をして闘うギガウだったが、マガラ国に到着したリジとライスが参戦し、パーティの力でヴァルドルを打ち負かした。


【本編】


 ヴァルドルとの闘いが終わると、倒れてしまったのは、アシリアでもギガウでもなく、ライスだった。


 ギガウに受け止められたライスにアシリアは焦るように駆け寄った。


 「ライス! ライス!」


 「やぁ.. アシリア。無事でよかった」


 生気のない弱々しい返事をするライスを強く抱きしめるアシリア。


 その様子をみてリジはアシリアへの固定されていたイメージが変わった。そこにいるのは「氷のアシリア」などではなく大切な仲間を心配する優しいエルフの女の子だった。


 マガラの軍が4人の英雄に声をあげて称えた。そして騎馬隊の副隊長がギガウのもとに馬を走らせた。


 「私は騎馬隊副官ダボルと申します。あなた方の今回の活躍は私たちの国を救ってくれました。ありがとうございます。さ、そちらの方は私が馬で運びましょう、どうぞ」


 「いや、申し出はありがたいが、ライスは私たちが連れて行く。それよりも先に国へ帰りライスの為にご馳走を用意してくれ。呆れるほどたくさん食べるんだ」


 「わかりました。あなた方の活躍を王に知らせ、最高のおもてなしをご用意いたします」


 ギガウにそう告げるとダボルの馬は砂を蹴った。


 入れ替わるように水脈管理大臣の秘書ミレクがギガウの馬を引連れやってきた。


 「さすがギガウ様だ。やはりあなたは授かり人だ。さ、国へ参りましょう」


 ギガウが与えられた「ラークマーズの墓」の調査に同行したミレクだったが、彼にとってギガウは英雄を越えた存在に成っていた


 ギガウはライスを抱え上げた。そして自分と紐で結ぶと、マガラ国へ馬を走らせた。


 スレイは遠くで避難しているマイル・レッタの馬車を呼びに走った。


 ・・・・・・

 ・・


 — マガラ国 玉座の間 —


 玉座を前に最前列からギガウ、アシリア、スレイ、後列にリジとマイルが並ばされた。そして騎馬隊副長のダボルと水脈管理大臣秘書のミレクが最後尾に立っていた。


 副長ダボルから報告を受けると、ユウラ王は一息ついて安心した表情になった。


 「ギガウ、この度は、よく国を守ってくれました。マガラ国の王として礼を言います」


 「いいえ、この国を守るために最初に立ち上がったのはエルフのアシリアとスレイです。彼女たちがいなければ、この国は一気にラークマーズの大群に飲み込まれていたかもしれません」


 「そうですね。アシリア、スレイ、改めて礼を言います。それとギガウとともに闘ってくれた旅人よ、礼を言います。はて、旅人は3人と聞いていたが、もうひとりは? 確か魔法使いだと..」


 「失礼ながら、その魔法使いは力を使い果たしまして..」


 気まずそうなギガウに代わって騎馬隊副長のダボルが助け舟を出した。


 「なに? もしや死んでしまったのですか!?」


 「いえ、腹が減って死にそうなので今、食堂で大飯を喰らっております..」


 「ご飯? ふ、ふふふ、ははははは、あははははは。ご飯食べてるんだ。あははは」


 ユウラ王は15歳の女の子に戻って大きな口をあけて笑った。


 「は、はい。ご馳走をするのがこのダボルとの約束でございまして..」


 「はぁ、はぁ、わかりました。面白い魔法使いですね。して、ギガウよ」


 ユウラ王はギガウを真剣なまなざしで見つめる。


 「お前は約束を果たせたのですか?」


 「はい。ラークマーズの墓をみつけ、ミレクとともに深い地底より引き上げました」


 その報告を聞くとユウラはほっと息を吐いた。


 「よくやってくれました。これでラマリを採掘できる.. この国は救われました」


 うつむく王の床に涙が落ちるのが見えた。無理もないことだ。わずか15歳のユウラ王は底をつきそうなラマリの状況に毎日、心をすり減らしていたに違いないのだ。その重荷から今解放されたのだ。


 そしてこの問題は、彼女の王としての求心力に関わる問題そのものでもあったのだ。


 「おそれながら陛下、約束の王国キャスリン行きの乗船許可ですが、あと3名分追加することは可能でしょうか?」


 「約束は3つのはずですが?」


 「はい、承知しております。実はこの3人の旅人は私の恩人であり、かけがえのない仲間なのです」


 「3人の名前を教えなさい」


 「魔法使いのライス・レイシャ、騎士のリジ・コーグレン、マイル・レッタでございます」


 「リジ・コーグレン.. もしやヴァン国の? これは失礼しました。ヴァン国に対しペドゥル国が起こした事件を知っております。大変でしたね、コーグレン殿」


 リジは深く頭を下げた。


 「わかりました。国を守ってくれた者たちへの礼としては余りある。6名分の乗船許可証を出すことを認めましょう」


 「ありがとうございます」


 「ギガウ、お前たちもご馳走を食べに行きなさい。ここの料理人はなかなかの腕前なのよ♪」


 ユウリ王はギガウにウインクすると玉座から降りて広間を出て行った。


 こうしてギガウは物を得るにはそれ以上の対価を払うことを必要とする砂の王国マガラで、島の王国キャスリンへの乗船許可証6枚を手に入れることに成功した。

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