第30話 月とベッドと....
【前話までのあらすじ】
ヴァルドルとの闘いが終わり、玉座の間にてユウラ王から無事6名分の乗船許可証を約束された。ただ一人玉座の間に姿を現さなかったライスは死にそう.. なくらい腹を減らして先にご馳走を食べていたのだった。
【本編】
玉座の間から王が出て行った後、ギガウは気になっていたことをリジに尋ねずにはいられなかった。
「リジ・コーグレン、ロスは、ロス・ルーラはなぜ姿を現さないんだ?」
「アシリア、ギガウ、落ち着いて聞いてね。ロスさんはもういないの?」
「もういない?」
「ロスさんは死んでしまったのよ。闇の従者からライスを守るために」
「ば、馬鹿な.. あの男はただものではなかったはずだ」
アシリアが声をあげた。
アシリアにはその事実を受け入れることが出来なかった。彼女だけがロス・ルーラのとてつもない魔力に気が付いていたからだ。そしてすぐにハッとしたように尋ねた。
「ライスは? ライスは大丈夫なのか? 」
「うん。ライスは本当に強いよ。全てを受け入れ、そしてロスさんの意志を継いで旅を始めたんだ」
「ロス・ルーラの意志とは、いったいなんだ?」
「アシリア、あなたも知りたがっていたロスさんの正体。それはね、伝説の勇者ソルトのパーティの一員、大魔術師リベイル・シャルトだったんだ」
「なんだって! ..いや、やはりといったところか。 そうか! 禁呪を使ったのだな!」
「うん、そう手記に書いてあった」
「アシリア、禁呪とはなんだ?」
ギガウがアシリアに尋ねた。
「精霊、エルフ、そして神に最も忌み嫌われるものがある。それが自然の摂理を覆すことだ。リベイル・シャルトは禁呪によって魂をこの世に縛り付けていたのだろう」
「そんなことが可能なのか? 勇者ソルトといえばルメーラ国で闇の覇王を打倒した存在だ。600年以上は生きていたことになるぞ」
「大魔術師ならば可能だ。しかし禁呪は制約魔法だ。何を引き換えにしたんだ? 彼は魔術師なのに魔法を使わなかった.. 制約は魔法か? いや、ロス・ルーラは決して自分の正体を明かさなかった。そうか、世界から存在を消すことか」
「うん。 でもロスさんはライスを守るために魔法を使ったの」
「そうか.. そのために精霊によって世界に名前が刻まれ、制約が解かれてしまったのだな.. しかし、ライスは愛されていたのだな。 今の私にはわかる」
そういうとアシリアはギガウを見つめた。
「禁呪を使ってまでロス・ルーラは何をしようとしていたのだ?」
「ロスさんが生きた目的は、勇者パーティの呪いを解くことだった。呪いを解くためには『形のない宝石』が必要なの。それが、今、島の王国キャスリンにあるかもしれないのよ」
「そうか。私にも王国キャスリンに行く目的がある。だが、私とギガウも仲間の頼みを断らない。何でも言ってくれたらいい」
「ありがとう、アシリア」
「よし、じゃあ、俺たちもご馳走を食べに行くとしよう」
今の会話中、リジが『形のない宝石』を口にした時、スレイの表情が変わった。その些細な変化を元王国密偵マイル・レッタの鋭い観察眼は見逃さなかった。
・・・・・・
・・
「あはははは。 そんなことが!?」
「本当なんだって。まさか自分が召喚した動物にお尻をかじられるとは思わなかった。先生を見たら頭抱えてたから、もう見捨てられるかと思った」
「はははは、パンツ破られてたんでしょ? それはそうなるよ! あはははは」
食堂の外まで聞こえる大きな笑い声。ライスの『苦労話』を涙を流しながら楽しんでいたのは、なんとユウリ王だった。
しかし、ライスはその相手がこの国の王だなんて少しも想っていなかった。ユウリ王は堅苦しい正装を脱ぎ捨て、着崩れたシャツにだぼだぼのパンツ、踵を踏んだ靴で大きな口をあけて笑っている。誰もこの少女が王だなんて思わないだろう。
「あ、アシリア!」
いつものようにアシリアの姿を見つけると飛びついて抱きしめて来るライス。いつもは照れ隠しに呆れ顔をしていたアシリアは今回だけはライスを抱きしめ返した。
「アシリア.. 温かいね」「ああ、そうだな」
「みんなに紹介するね、今、食堂であったユリちゃんだよ」
「おい、ライス! その方は—」
ユウリ王はギガウに向かって口に指をあてた。
食堂では魚から山羊の肉、そして珍味としてラークマーズの眼のゼラチンを冷やしたデザートが振る舞われた。
どれも、これも舌鼓を打ち、飛ぶように皿が運ばれていく。
そしてお互いの旅の土産話に華を咲かした楽しい夜は過ぎて行った。
それぞれに賓客用の豪華な部屋が与えられた。部屋の中央にそれはそれはフカフカの大きなベッドが置いてあった。そこに飛び乗って寝そべるライス。
ベッドはライスをボヨンと弾くと、フワっとやさしく包み込んで沈んだ。
「凄いベッドだなぁ! こんな凄いベッド初めて! ああ、それにしても楽しかったぁ」
思わずひとり、声を出してしまうほどライスには楽しい夜だった。
ライスはすごすごとベッドから降りると、掛け布団を引っ張って、窓の近くの床に敷いた。そしてそこに寝そべるとそれにくるまった。
「うん、冒険者はやっぱりこれだね」
窓から射し込む砂漠の月が少し明るかったけど、今のライスの心模様には丁度良かった。
— 部屋に置いてある観葉植物の葉が揺れた。
「大丈夫だよ。私も少しは強くなったよ。ありがとう、アシリア」
するとまた観葉植物の葉がふわりと揺れた。
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