第26話 国を作ったラマリ

【前話までのあらすじ】


「チャカス族のギガウが、ユウラ王の頼みを引き受ける」ここまでがザイドの根回しだった。ザイドは無償で紹介役を引き受けたわけではなかったのだ。ここまで達成することでマガラの益、ギガウの益、そしてザイドの益という3者の利益が成立するのだ。平たく言えば、ギガウたちは、やり手のザイドに一杯食わされたのだった。

◇◇◇


【本編】


 ギガウが『魔獣ラークマーズの墓場』を探しに砂漠へ出てから既に10日が経過しようとしていた。


 アシリアの心情としては、ギガウと共に行きたかったのだろうが、それは砂漠をひたすら歩きまわる過酷な旅。森のエルフであるアシリアが同行するなど足手まといになるだけ。それは、これまでの旅からわかりきったことだった。


 ギガウと共に旅をするのは水脈管理大臣ダレルの秘書ミレクであった。ミレクはギガウと同じチャカス族の末裔であり、彼の体にもチャカス族の精霊を宿すためのタトゥが彫られていた。


 今現在、マガラ国の各地区への水供給はミレクが行っていることは間違いなかった。彼が地の精霊の能力で水脈を管理しているのだ。


 『ラマリ』という化石燃料については、旅立ちの前にザイドが詳しく教えてくれた。


 『ラマリ』という化石燃料は、魔法石の変異体なのだ。本来、魔獣は化石になり、それが長い年月のうちに魔法石へとなる。しかし、この乾いた砂の下では魔獣ラークマーズの化石は魔法石くずれの『ラマリ』へと変異してしまうのだ。


 実はこの『ラマリ』はマガラ国の水脈源にも大きな影響を与えている。


 マガラ国はライ山脈にあるルーナ国へ物資を供給するために存在する国である。


 マガラが王国でルーナが領主国の『1国1領主国』となっている。


 もともとルーナ国はマガラ国の地下水脈を満たすためにできた国なのだ。


 標高の高いライ山脈は当然、低温地帯だ。そんな低い気温の場所に『ラマリ』を運び上げると、『ラマリ』は自然発熱し始めるのだ。その発熱の際に『ラマリ』は水を排出していく。


 ライ山脈にはこの『ラマリ』の貯蔵庫が多数存在し、これらから流れ出る水は地に染み込み、小川となり、やがて麓にたどり着くと、地下水脈へと変わっていくのだ。


 ライ山脈は『ラマリ』のおかげで標高の割に温暖で水の豊富な場所となった。山という地形の不便さを差し引けば、水が豊富で作物も育てることが出来る山での暮らしを選ぶ者が出てきても不思議ではない。そんな背景で出来上がったのがルーナ国だ。


 『ラマリ』を供給することで水を得るマガラ国、『ラマリ』を需要することで温暖な気候を手に入れるルーナ国。この2つの国は需要と供給の関係がきれいに成り立つ国なのだ。


 故に水を勝手に動かすことは、この国関係を壊しかねない行為として厳しい罰を課せられる。


 王族の遠い親戚であるザイドからの情報は実に真実性がある確かな情報が多かった。アシリアはザイドに『キャカの木』について聞いてみた。もしかしたら好奇心が旺盛なザイドならば、その枝をくわえるだけで、水中で呼吸ができるといわれる『キャカの木』の情報を持っているかもしれないと思ったからだ。


 しかし、絶滅してしまった『キャカの木』の名前などザイドは知らなかった。


 「ならば、ザイドよ、お前は『牢獄の魔道具』を知っているか?」


 「ああ、それなら知っている」


 アシリアの目つきが変わった。


 「まさか、お前が持っているとかではないだろうな?」


 「ははは、まさか。『牢獄の魔道具』っていうのは精霊を閉じ込める酷い道具だ。アシリア、このマガラ国はかなり信仰心が強い国なんだ。精霊の類を使役しようなど罪深いものと認識しているんだぜ。だが、かつてこの国で、それを使おうと提案した男がいた。それは俺みたいな王族の末席にいるような男だった」


 アシリアは納得した。『牢獄の魔道具』などはそれを手にする者以外はほとんど知ることのない名前をザイドが知っていることに。


 「その男は今も国にいるのか?」


 「いいや、そいつはその『牢獄の魔道具』を使えば『ラマリ』を見つけ出すことも、雨を降らすことも出来ると、王族の親睦会の席で言ったんだ。そっこく王族から追放をくらって国を出ていったよ」


 「その男は、その時、その道具を持っていたのか?」


 「いいや、そいつは手に入れる伝があるとだけ言っていたな。まさか、アシリア、あんた、それを手に入れるために旅をしているのか?」


 「はずれだ。私はそれに関わる者を全て葬り去るために旅をしている」


 その時のアシリアの眼が殺し屋のそれに変化した。ザイドはその眼を見て、「アシリア」という名を思い出した。エルフの殺し屋「氷のアシリア」という人物を。


 「あ、俺、少し用事を思い出した。今日はここまでだ」


 それから、ザイドが直接アシリアに会う事はなくなった。情報が知りたいときはスレイを通じることになった。


 「アシリア、なぜアシリアは『牢獄の魔道具』を探しているの?」


 「スレイ、お前のほうこそ、なぜ私たちとキャスリン国へ行こうとする? いや、お前は最初からキャスリン国にいくために私たちに近づいたのだな。自分の乗船許可証を手に入れるために」


 「うん。ごめんなさい。でも、僕もどうしてもキャスリン国へ行かなきゃいけない理由があるんだ」


 「理由? まぁ、いい。お前はお前のやるべきことを勝手にやればいい。ただ、私の邪魔だけはするなよ」


 「..うん。わかってる」


 アシリアは自分の事情を他人に話そうなど思わなかった。そして、他人の事情にも興味などなかった。ただ、自分の使命を果たすことだけに行動をしている。今はその他のことはどうでもいいのだ。


 王国キャスリンに渡り、さらに水の国リキルスへの行き方を突き止めなくてはいけない。そして姉エレンフェと『牢獄の魔道具』を消し去らねばならない。


 それが森の巫女アシリアとしての使命なのだ。

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