第25話 ザイドの根回し
【前話までのあらすじ】
玉座の間に連れて行かれたギガウは齢13のユウラ王と対面する。この国では水脈を勝手に操作することは死罪に値した。ユウラ王は恩赦を条件に、ある事柄をギガウに命令しようとした。しかしギガウは、逆に自分に有利な条件を呑ませることに成功する。ユウラ王がギガウに頼んだのは『魔獣ラークマーズの墓場』を見つけることだった。
◇◇◇
【本編】
ユウラ王と約束を交わし、ギガウの拘束は解かれた。アシリアが先走って強硬手段をとってしまわないように、ギガウは急いで彼女を探さなければならなかった。
「ギガウさん」
玉座の間を出て、すぐに声をかけて来たのは水脈管理大臣ダレルの秘書ミレクだった。
「お仲間を探しにいくつもりでしょ? どうぞ、付いてきてください」
階段を降りて奥の部屋に案内されると、アシリア、スレイ、ザイドがお茶を飲んでいた。すっかりくつろいでいる3人にギガウは拍子抜けしていた。
「どうやらうまいこと話が進んだみたいだな」
「これはどういうことだ? なぜ、お前らがこんなところでお茶を飲んでいる?」
「あのあと、直ぐに水脈管理の役人が私たちをこの部屋に案内したんだ。もしも、お前が条件を飲まない場合に備えてな」
「何だと? お前らを人質としようとしていたのか!? 卑劣な」
「いや、そうではない。私たちはお前の説得を任されたんだ」
「わけわからん、どういうことだ?」
アシリアに代わり、ザイドが説明を始めた。
「まぁ、『お前を上手く説得する』ってところまでが、俺の根回しなのさ。この国は物々交換が基本だ。そこには心理戦が付いて回るんだ。所謂、交渉って奴さ。そのおかげでお前はたくさんのものを得ることが出来たのだろう?」
ザイドはなぜ紹介役を引き受けたのだろうか。ザイドもマガラ国の人間なのだ。ザイドはチャカス族のギガウにユウラ王からの依頼を飲ませることで、巧みにユウラ王からの大きな恩恵を受け取ったのだ。
「しかし、玉座の間では死罪をちらつかされたぞ」
「そいつは建前さ。水を移動するのが死罪に値するというのは本当だからな。この国はな、枯渇しているんだ。砂漠の国マガラにとって水はもっとも大切なものだ。しかし、それと同様の物がもうひとつある。それが『ラマリ』だ」
「『ラマリ』とはなんだ? 聞いた事ないな」
「森や肥沃な大地に住む者には、聞きなれないだろう。この『ラマリ』は砂漠に巣食う魔獣ラークマーズの死骸の化石なのだ。ラークマーズは死んでも魔石にはならない。その代わりに発火する物質になるのだ。『ラマリ』は王国キャスリンやライ山脈のルーナ国との交易に欠かせないものなのだ」
「しかし、今までも『ラマリ』を採掘していたのだろう?」
「いや、今、『ラマリ』は尽きようとしているという話だ。その原因が冒険者だ。今から500年くらい前、冒険者たちが多くのラークマーズを討伐してしまった。そのおかげで化石化するラークマーズが激減してしまったんだ。当然、『ラマリ』の採掘量は下降線をたどった。しかし、このラック砂漠の地中深くには、広大な『ラークマーズの墓場』があると言われている。ギガウ、お前の力でそれを地表まで引き上げて欲しいのだ」
「なるほど..」
「ギガウ、出来るのか? お前に負担がかかるなら、違う方法を考えよう。何もこの国に頼ることもない。キャスリンに行くにはきっと違う方法があるはずだ」
アシリアは以前、ギガウが地の精霊を酷使したために倒れたことを思い出していた。
「アシリア、まずこの目の前の方法を考えてみよう。もし、ダメなら違う方法を考えればいい」
「ギガウ..」
今まで他人の心配を表に出すことはなかったアシリアがギガウを見つめた。
「それに、これが成功すれば、クタ地区の人々も自由に水を使えるんだ」
ギガウの言葉にスレイの表情が明るくなった。
「では、交渉成立だな。俺はユウラ王に会って来る。 ....ギガウ、お前はこの国にとっての英雄だ。もし、『ラークマーズの墓場』を見つけたなら、お前の名は後世語り継がれることになるだろう」
ザイドは扉を開け出て行った。
それでもギガウに負担をかけることにアシリアの気は晴れることはなかった。今まで誰に頼ることなく非情な手段を使ってきた。全ては、自分の姉を探す為だ。だが、目の前にいる男は自らを犠牲にして他人を助けようとしている。
アシリアは、ギガウという男に戸惑っていたのだ。
「アシリア、もっと喜んでくれ。これでキャスリン国への道筋ができたんだ」
「..ああ、そうだな。わかったよ。ギガウ、ありがとう」
その横で、今度はスレイが浮かない表情をしていた。
「スレイ、全てはお前のおかげだ。キャスリンへの乗船許可証、まんまと3枚いただきだ!」
ギガウがスレイに拳を突き出すと、スレイはギガウを見つめ、笑顔で拳を合わせた。
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