第21話 優しい贈り物

【前話までのあらすじ】


セレイ村にマイルたちが帰って来た。角人シルバに預けていた『秘想石』は質が悪く役に立たないことがわかった。するとシルバが自分の角を使うことを提案した。その申し出をありがたく受け入れ、切り取られた角はキースによって宝石へと加工された。

◇◇◇


【本編】


 王国キャスリンへの道は、元密偵のマイルに任せておけば心配ない。


 そう思っていた。


 「ねぇ、リジ。キャスリンって南でしょ?」


 「うん。森や山を抜けて、さらにはその先にある砂漠を抜けていかなければいけないはずだよ。地図にはそう書いてある」


 「でも、これって北に行ってない? こっちはペドゥル国だよね? しかも何で馬車なの?」


 馬車が停車した。


 「さっ、2人とも降りた、降りた!」


 急かされるまま馬車から降りると、マイルは周辺の木々に何かを探し始めた。


 「よぉし、あったぞ! これから森に入るからついて来い!」


 ライスとリジは顔を見合わせると、仕方がないとマイルの跡をついて森へ入って行った。


 しばらく歩くとマイルが立ち止まる。『これか』と呟くとこんもり盛り上がった木の葉を手で払いのけた。すると筵(むしろ)で隠された荷物がでてきたのだ。マイルが筵を引きはがすと、そこには酒樽や穀物、衣類や盾などの武具もあった。


 「ねぇ、マイル。これはなに? 何でこんなところに?」


 ライスの質問に答えようともせずマイルは周辺を見まわしている。


 「えっと、どこかな? なぁ、ライス、その辺にイチゴ印の木札が挿してないか?」


 それは丁度、ライスの足元にあった。


 「うん、ここにあるよ」


 「よしっ、そこを掘ってみな」


 ライスとリジがそこを掘ると、土の中に宝箱が埋まっていた。


 「宝箱だ!」


 ライスが手を伸ばすとリジがその手を止めた。


 「まって。これってミミックってやつじゃない? 魔獣・猛獣100科に載ってたよ」


 「あははは。そんなんじゃねぇよ。開けてみな!」


 ライスが恐る恐る開けると、中に干し肉やハム、チーズ、果実飲料、そして袋には食パンが入っていた。


 「このパン! これって、もしかして?」


 「ああ、リヨンさんからの餞別だよ。みんなで食べてくれってさ」


 リジは胸いっぱいの気持ちになった。あの思い出深いパンを贈ってくれたリヨンさんに抱き着いてお礼を言いたかった。


 「やったね、リジ! あとで馬車の中で食べようね!」


 「うん」


 「さぁ、その前にこの荷物を馬車に詰め込むぞ。『この辺は討伐隊から山賊に鞍替えした奴も多い。急ぐぞ!』


 ・・・・・・

 ・・


 大急ぎで全ての荷物を運ぶのはかなりの重労働だった。


 「やっぱり、労働のあとの食事はうまいね!」


 「だね」


 「おいっ、全部食べるなよ。長い旅になるんだからな」


 「うん。ところで、この荷物どうしてあんなところに?」


 「ああ、あれはリヨンさんに『脅しのネタ帳』を譲って、商店連中から集めてもらったものさ。だけど、どうやらリヨンさんは『脅し』を使わなかったみたいだな」


 マイルが運転席から何かを荷台に投げ入れた。それは『脅しのネタ帳』だった。ネタに関するページは破り取られていたが、最後の1ページには、街の人々からの温かい別れの言葉が書かれていた。


 「ねぇ、私たちお酒飲まないけど、まさかマイルさんて凄い酒豪なの? こんなにいっぱい」


 「やっぱり、俺が一緒じゃなきゃだめだな。 こいつは酒で会って酒ではない。金さ」


 「お金? 売りながら旅するつもり?」


 「リジ・コーグレン。これからヴァン国を継ぐのならば、この旅を始めとして、もっと他の世界への見識を広げたほうがいい。これから俺たちが向かうのは砂漠の国マガラだ」


 「なんで? 『形のない宝石』はキャスリン王国で見られたんだよ?」


 「ライス、リジ、キャスリン王国ってのは島にある国なんだぜ。そこに渡るには船に乗らなければならない。それも交易用の大きな船だ。この船に乗るには所有者であるマガラ国の許可が必要なんだ。それにはそれ相応のものを与えなきゃならない」


 「それなら、私のお金があるし、魔石だってたくさんあるわ」


 「リジ、マガラ国ってのは、基本的に物々交換の国なんだ。与えたものと同等以上の交換を求める国だ。砂漠の民にとって穀物や果樹酒ってのはな、時に金銀よりも価値あるもんなんだぜ」


 「なるほど」


 リジはマイルの経験からの知識を素直に受け入れ感心していた。


 「でも、なんで南に進まないの? マガラ国って南でしょ」


 「まぁ、地図上ではな。だが、実はこの地図は正確とは言えない。地図では道は直線に見えるが、南への道は極端に道が悪い。崖のような坂道とは言えない道まである。それを回避するため旅人は地図に載ってない周り道をすることなっちまう。 安心しろ。この道が一番近いんだ。ここから北の山を周り込み南に下降すれば、ライ山脈が見えて来る。あとはそれを目印に進む単純な道のりだ」


 「なるほど、じゃあ、今度、それを地図にして売ったらいいのに」


 「まぁ.. そうだな。著者への免責が認められたらな」


 ・・・・・・

 ・・


 —ギシャアァア!!


 「ちょっと、これってザラキの上位魔獣三つ首のミザックじゃない!」


 「これが、地図を売り出せない理由さ。この道は近いが、手ごわい魔獣が盛りだくさんだ。地図が売れた分だけ死体の山が増えちまう。納得いったか?」


 「そんなこと言ってる場合じゃない。急いで逃げて」


 「待って、リジ。ザラキは狡猾な魔獣。その上位魔獣なら尚更のこと。ここで倒そう」


 「わかった。マイル、馬車を止めて! やっぱ、ここで殺るわ」


 ライスとリジは馬車を降りた。


 そして、ライスは鞄の中から式紙を手に持った。

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