第20話 探知器

【前話までのあらすじ】


ライスが霊力持ちと知ったルシャラは彼女が内包する莫大な霊力を引き出せるように、キース・レッタに耳飾りの作成を頼んだ。そしてルシャラとキースは約600年ぶりの再会を果たすのだった。

◇◇◇


【本編】


 「ライス、式神(しきがみ)とは本来、闘神を召喚するための術式だ。始祖は12もの神を召喚できたと伝えられている」


 「本当に!? ならその神様に願いを叶えてもらえないのかな?」


 「そうだといいのだが、残念ながら、『この世界では真の式神は使えない』とも伝えられている。しかも、この世界は式神を呼び出す霊力の絶対数が少ないのだ」


 「霊力?」


 「この世界は大きく2つの力に大別される。自然力と魔力だ。世界はこの2つの融合で成り立っているんだ。しかし始祖は霊力を使うことが出来た。おそらく、魂の力だと私は思っている。ライス、お前もその霊力を持っている。お前は自然力、魔力、霊力をもつ稀な存在だ」


 「だけど、霊力ってどうやって使うの」


 「安心しろ。お前は既にそれを使っている。黒い炎を纏うテンを出しただろう。それが証拠だ。しかし、お前はコントロールができていない。たぶん、その霊力を魔力の出口で出しているからだ。私はその出口をキースに作ってもらった。その耳飾りがそうだ」


 ライスは耳飾りを指で触れた。


 「お前は昨日、神ではない何かを呼び寄せた。だが、無闇にそれを呼び出せば、お前の霊力はすぐに尽きてしまう。霊力が尽きたあとに残るのは、お前の死体だ」


 「それは困るよ」


 「だから、お前は霊力をコントロールする術を身に着けるのだ。何、そんなに難しいものではない。感覚さえつかめば、時間はかからない」


 そして、ルシャラの指導の下、ライスは霊力のコントロールの練習をする。それは単純な方法だ。


 ・黒炎のテンを1匹だす→それを1匹ずつ増やしていく


 ・今度は黒炎のテンを10匹だす→10匹ずつ増やす


 この練習の繰り返しだった。それに慣れたら、次に大型獣の虎で同じ訓練を繰り返して行った。


 ライスの耳飾りは比較的ゆるい霊力を出している時は青色、大型獣の召喚など大きな霊力が必要になると赤みが強くなっていった。


 「よいか、ライス。この練習をお前は少なくとも10日間行うのだ。私の許可が下りるまで、霊力で何かを呼び出そうなどとするなよ」


 ルシャラは『あとはお前次第だ』と言うと紙に戻り、それからしばらく、出てくることはなかった。


 『はい』と返事はしたものの好奇心の権化であるライスが、神を呼び出したい欲求をこらえるのは大変なことであった。


 翌日、朝とも夜とも言えない時間に本屋のレッタと角人のシルバを連れてマイルが戻って来た。


 レッタはライスとリジの姿を確認すると駆け寄った。


 「ロスさんのことは聞いたよ。残念だったね。君たちは大丈夫かい?」


 「ありがとうございます。それより私たちがレッタさんを巻き込んでしまって..」


 「いや、いいんだよ。本屋はマイルがいなければ、どのみち廃業だ。それに、君たちのおかげで蓄えもできたしね」


 「レッタさん、もうマイルから全て聞いていると思いますが、私はコーグレン家の者です。レッタさんが安心して暮らせるように、このリジ・コーグレンがお約束します」


 リジはレッタの手を力強く握った。


 ・・・・・・・

 ・・


 レッタとシルバの再会をすませると、早速、キースの店で話し合いが行われた。


 「え? この秘想石が使えないって?」


 「うん。この秘想石は.. きっと角人の死体から切り取ったものだよ」


 シルバは目を伏せながら答えた。


 「どうしようか、リジ? 秘想石がなければ『形のない宝石』は見つけられないよ」


 「じゃあ、ペドゥル国で秘想石を買えばいいんじゃない? お金はコーグレン家で出すわ」


 「待った。残念だが、その案は却下だ。もう秘想石は簡単には手に入らない。ペドゥル国内の秘想石はカシュー国が没収してしまったからだ」


 「でも、一部は闇取引されているでしょ? カシュー国が没収したというなら、付加価値を加えた品が闇に出回っているはず。商魂あるペドゥル国の人がそれをしないはずないわ」


 「さすが、コーグレン家の次期領主候補だな。鋭い。だが、それも却下だ。俺の親父は華貴族殺害容疑者の親として追われている。俺は秘想石を買うことで変な足跡を付けたくない」


 「じゃ、他国に出回っている秘想石を探したら? もしかしたらヴァン国にも持っている人がいるかもよ」


 「それも無理だろう。秘想石が奴隷とされた角人の角であるということは、リヴェヴァリオ国によって各国に知らされている。いま、それを所持していることを吹聴する金持ち連中はいない。非人道主義者を自ら着飾ることなどしないだろ」


 『形のない宝石』を探すには、それを探知する秘想石が必須だ。だが、それ自体を入手することが難しくなってしまった。


 「まぁ、焦ることもないだろ。俺がいろんな情報に目を配るよ。いつか秘想石を持つ奴はしっぽをだす。自慢もできない品など金持ちはすぐに手放すからさ」


 珍品を扱うキースの言葉は説得力があった。しかも現実的で安全な方法だ。


 「そんなに気長に待つことないよ。秘想石なら..ここにあるよ」


 シルバが自分の頭の角を指さした。


 「だめだよ。そんなことできない。それは角人としての証。それにあなたの想い出を映し出す大切なものでしょ?」


 「お姉ちゃん、想い出にすがっているだけじゃ前に進めないよ。いいんだ。別に角がないから困るわけでもない。僕の角を切り取って使ってよ」


 「じゃ、シルバ君も旅に同行したらどうだ?」


 キースがそう提案すると、シルバは首を横に振った。


 「それじゃ、きっとダメだと思う。角のままだと、僕の意識が邪魔をして『形のない宝石』と共鳴しないと思うんだ。それに僕は一刻も早くヴァン国で料理の修行を再開したいんだ」


 「わかった。シルバがこう言っているんだ。ありがたくそうさせてもらおうじゃないか」


 マイルが決めあぐねるライスとリジに代わって、決定の責任を負ってくれた。これはライスとリジの心の負担を減らそうとする彼なりの思いやりだった。


 そしてキース・レックによってシルバの角が切り落とされると、宝石にしたてるために加工を施すことになった。


 「ありがとう、シルバ。これですぐにでも旅に出られるよ」


 「ううん。僕の角がロスさんの望みを叶えることに役立つなら、僕はうれしいよ」


 「うん。絶対に見つけてみせるから」


 「シルバ、あなたの料理の修行先は、私が紹介するわ。腕の良い料理人を知っているから」


 「ありがとう、リジさん」


 こうして、『形のない宝石』を探す南の島の王国キャスリンへの旅が始まった。

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