第22話 練習としての戦闘
【前話までのあらすじ】
いよいよ王国キャスリンへの旅が始まったライスたち一行。道はキャスリン出身のマイルに任せておけば間違いない。マイルが行く道は地図にはない一番近い道。しかし目の前に上位魔獣ミザックが現れた。
『わるいな。この道、近いけど手ごわい魔獣がめっちゃ多いんよ』※マイル談
◇◇◇
【本編】
「おい、お前らマジか? たった2人で」
「ううん、こいつは私ひとりでやる」
「ライス、私も加勢するわ」
「違うの。リジ、私ちょっと試してみたいの。ルシャラ先生に習ったことを。もしダメそうだったら助けて」
ライスはリジに笑顔で語り掛ける。
「そっか。それじゃ、好きなようにしなよ」
「ありがとう」
三つ首のミザックの真ん中の蛇が大きく口を開けると、舌の上に白面を被った本体が姿を現した。
『聞いたぞ。あきらめるならまだしも、ひとりで闘うだと。なめられたものだ』
ミザックが—ビュッ っと唾を吐くと、ライスの足元の草が腐り始める。
「忘れてた。あんたら上位魔獣が人の形に変化できるのを」
「ならば、我らの恐ろしさも忘れたのだろう。 情けだ。10秒待ってやる。逃げてみろ」
ミザックの面の下の顔がイヤらしく笑っているのがわかる。
「逃げないわ。どうせ、なにか魂胆があるんでしょ。あなたはここで倒されるのよ」
ミザックはこの先の河の手前にザラキを5匹控えさせていた。いつもはザラキが旅人の手足を引きちぎる前に『助けてやろうか?』と希望を与える。だがその直後にザラキが腕をちぎる。現実を受け入れられずに死ぬ旅人の顔にミザックはこの上ない快感を覚えるのだ。これこそ人に変化できる上位魔獣の特権だと思っていた。
『私は、あきらめの悪い人間は嫌いなのだよ』
左右の蛇が頭をもたげると頸部を大きく広げ威嚇する。
ライスは耳飾りを指で弾くと式紙に息を吹きかけた。
—私の忠実なる式神よ、現れて!—
式紙が—ポンっと音を鳴らすと白いイタチが1匹現れた。
イタチはライスの足にまとわりつくと顔を脚に擦りつけ甘えている。
その様子にミザックの口の中から笑い声が聞こえた。
「ねぇ、ライス。大丈夫? 手伝おうか?」
「だ、大丈夫だよ。たぶん..」
馬車の陰にいるマイルは「こりゃダメだ」とばかりに手の平で目を覆い、天を仰いだ。
ミザック本体は嘲る笑みを浮かべ、両脇の蛇がシャーっという威嚇音を発しながら頸部を大きく広げた。
その敵意に反応した白イタチの顔に幾何学的な模様が浮かび上がると、その体はまるで巨大な虎のように大きくなった。
瞳は闇色、耳と尾が纏う炎は紅色から黒色へと変化した。
長い黒炎の尾を地面に叩きつけると、白イタチは風を切るようにミザックの喉元まで登り、鋭い牙を打ち込んだ。
ミザックの喉は煙を立てながら焼かれていく。その灼熱の痛みに、ミザックの本体が叫びを上げた。
「ぎぇえぇぇ! お、おのれ、畜生めが!」
両側の蛇が毒牙を剥き出し白イタチに襲い掛かるが、それを軽々とかわす。そして、黒炎の尾を絡ませながらミザックの頭へ登る。
三つ首を黒炎で拘束されたミザックはわずかにも身動きが取れない。
白イタチは黒炎の尾を切り離し、ライスの足元に戻って、その顔を覗き込む。
ライスがうなづくと、白イタチの体の幾何学模様が宙に浮き呪文を形作った。
黒炎はさらに黒さを増し、光沢のない闇色へ変わる。
「こ、この炎は.. や、やめろ・・・——」
ミザックの体は白色になり塵となって消えた。
白イタチは元の小さな体に戻ると ぴょんぴょんとライスの体を駆け上り肩から跳躍すると一枚の紙へとなった。
「やったね! 」
リジの賞賛の声が聞こえると同時にライスはゆっくり倒れて意識を失った。
・・・・・・・
・・
ゴトゴトと揺れる荷台。
『ここはどこ?』とライスは一瞬思った。
「ライス、やっと目を覚ましたか」
「あ、先生。どうして?」
ルシャラはライスの頭を撫でながら優しく微笑んだ。
「見事だったぞ。自分の式神を手にしたな。白イタチに名前を付けてやるといい。お前との繋がりが固くなる」
「はい、考えておきます」
「いいか、ライス。今は闇炎を最低限にしておくんだ。あの炎はお前の霊力を燃やしている。まだ慣れないお前が使いすぎるのは危険だ。お前なら霊力と魔力を同時に使いこなすことだって出来る。そして、それがお前の次の課題だ」
「はい、先生」
その返事を聞くや、ルシャラは紙に戻った。
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