第17話 形のない宝石』とは

【前話までのあらすじ】


スレイに砂の国マガラを案内されたギガウとアシリア。サンガ、レイズ、クタと地区分けされるマガラ国。マガラ国は貧富の差がそのまま使える水の格差にもなっていた。ギガウは地の精霊の能力でクタ地区の井戸を水で満たした。


一方、ライスとリジは興信所のマイルを密偵として仲間にした。「形のない宝石」が島の王国キャスリンにあると推理し、一行はキャスリンへ向けて旅立とうと考える。だが、その前にロスの死を伝えにキースの居るセレイ村へ立ち寄ることにしたのだった。

◇◇◇


【本編】


—セレイ村—


 ライス、リジはマイルを連れてセレイ村に訪れた。


 村の入り口でライスとリジを見つけると子供たちは一斉に集まってきたが、やっぱりマイルには冷ややかな視線を送っていた。


 「ねぇ、俺ってそんなに怪しいかね。なんか俺、自分を客観視できていなかったのかなって自信失くしちゃうな」


 「客人、きっと子供たちはそんな風に言いながらも、隙を見せないあなたの心をみすかしているんだよ」


 いつものようにどこからなく後ろから声をかけて来るキース・レックだった。


 「キース先生!」


 キースの姿を見るや、リジは大きな声をあげて近づいた。その様子を見て2人に大きな信頼関係が出来ているのだなと.. ライスは心のどこかでうらやましく思った。


 「先生、この人はペドゥル国で興信所をしていたマイル・レッタです」


 「あ、これは、初めましてマイル・レッタです」


 「俺はキース・レックだ。あなたの話はロスから聞いている」


 「キースさん、お久しぶりです」


 「やぁ、ライス。基礎魔力が前とは比べ物にならないほどしっかりしたものになっているな。驚いた。ところで、今日はロスの姿がないな?」



 「実は.. ロスさんは——」


 ・・・・・・

 ・・


 ライスは果樹園で起きたことを全て説明した。『祝福の鐘』『深淵の指ラムダグ』、そして『ロスの死』について。


 そして同時期に起きたペドゥル国の事件についてはマイルが説明した。ラリホ・ポーラを殺したラムダグが彼女に成り代わろうとしていた事実だ。


 キースは眉ひとつ動かさずに全ての話を聞き終えると、静かに語り始めた。


 「リベイルは良く言っていた。『俺はいつ消えても不思議ではない。だが、突然、俺が消える時は、大切なものを守り切った時だ』ってね。それは、ライス、君のことだ」


 そういうとキースはライスの肩に手を乗せた。


 ・・・・・・

 ・・


 「そうか、遺志を継ぐか。危険なことに首を突っ込むことになるのだぞ。いいのか?」


 「きっと私とロスさんが出会ったことには意味があると思う。もしかしたら私の思い込みかもしれないけど、私はそんな気がするの。だから私はロスさんのやり残したことを全てやりたい」


 ライスが決意を表明するとリジが言った。


 「それに、キース先生。『漆黒の闇』が世界を混乱させようというなら、立ち向かわないわけにはいかないよ。私たちは冒険者だもん」


 「わかったよ。だが、ラリホ・ポーラからは話を聞けなかったのだろう?」


 「それは、俺がだいたい特定しました。『形のない宝石』はおそらく南の島の王国キャスリンにあります。そしてキャスリンは俺が密偵をしていた国です。そこで、キースさんに聞きたいのですが、いったい『形のない宝石』とは何なのですか? そしてラリホ・ポーラはどのようにしてその宝石に接近したのですか?」


 キースは『形のない宝石』について説明した。


——

 『形のない宝石』


 その宝石の本当の姿を知る者は少ない。

 その姿を見ることが出来るのは、望みを持たないものだからだ。

 その宝石は強い願い、強い想いに反応する。

 それは願いの大きさではない。願いの強さだ。

 誰かが池の水を掬いたいと心から願えば、宝石は柄杓に姿を変えるのだ。


 だが、宝石は、その願いが本物であるかを判別する。


 願う魂を、自分の宝石内に取り込むのだ。

 そして、その魂の願いが宝石に認められれば、柄杓にでも剣にでも姿を変えてしまう。


 ゆえに宝石は「形のない宝石」と呼ばれる。


 魔術師リベイルは古の書物より『形のない宝石』を知ると、それこそが勇者ソルト、戦士エミ、僧侶ブイの魂を救うものだと考えた。


 リベイルは穢れを浄化する魔法を使える。だが、それを使えば勇者の魂も漆黒と一緒に無にと消えてしまう。


 漆黒の闇が勇者の魂と融合していようと、勇者の魂に強い意志があれば、「形のない宝石」は勇者の魂だけを取り込むだろう。その時、漆黒と魂は完全に分離されるのだ。


 勇者の魂は解放され天に帰ることが出来るのだ。

——


 「それは理にかなった方法ですね。だけど、そんな『形のない宝石』になぜラリホ・ポーラが接近できたのですか?」


 「それは彼女が身に着けていた秘想石だ。秘想石は想い出を映す石だ。それは角人の強い想い出が映し出されるものと思われているが、実は違う。秘想石もまた人々の強い想いを求めているのだ。リベイルの想い出の中のルメーラ湖を見たのだろう?」


 ライスとリジは頷いた。


 「強い想いに反応する秘想石は、『形のない宝石』の意思に共鳴したのだろう。だから秘想石は『形のない宝石』がある場所を映しだしてしまうのだろうさ。もちろんラリホ・ポーラはそんな意味など知らなかった。ただ、秘想石が映す景色を辿ったんだ。そして辿り着いた先に光を放つホウキを見つけた。とにかく不思議なホウキを宿に持ち帰ってはみたが、朝になるとホウキは忽然と姿を消していたんだ。ラリホ・ポーラはそれを旅のみやげ話として友人に話していたという」


 「では、そのホウキが『形のない宝石』だったと?」


 「確証はなかった。それを確かめる段階でラリホ・ポーラは殺されたのだから。だが、皮肉なことに闇の従者どもが真実性を与えてしまったな.. 危険な旅になる。それでも、行くのか、リジ?」


 「さっきも言ったでしょ、先生。私たちは冒険者だよ」


 「ふっ、そうだったな。だが、秘想石はどうするんだ?」


 「それなんだけど、私、前にその秘想石を品評会の帰りにもらったの。でも、それをシルバ君に預けてしまったのよ」


 ライスは『秘想石品評会』の参加した記念に確かに安価な秘想石をもらった。だが、ライスは秘想石が角人の角だと知ると、自分の持ち物にすることを拒否した。結局、それを角人であるシルバに預けることにしたのだ。


 「わかった。なら俺はペドゥル国に行って、リヨンさんの貯蔵庫から親父とシルバを連れて来るわ」


 「シルバ君も一緒にいるの?」


 「ああ、シルバは『リヨンの食卓』で調理の勉強中だ。2,3日待っていてくれ」


 「私たちも一緒に」


 「いや、今度こそ俺ひとりの方がいい。それまで君らは自分のすべきことをして待っていてくれ」


 「うん。わかった」「わかったわ」


 マイルはさすが元密偵だ。休むことなくすぐにセレイ村を出て行った。


 マイルが帰る間、リジはキースに剣の稽古をつけてもらい、ライスは式紙でルシャラ先生を呼び出し式神の授業を受けた。

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