第15話 最果ての人

【前話までのあらすじ】


果樹園にラムダグが襲撃して来た裏事情を知るライスとリジ。「形のない宝石」の在りかを特定すると、王国キャスリンへの旅を始める。


一方、アシリアとギガウは「牢獄の魔道具」に関わるアシリアの姉を探しに水の国リキルスを目指す。そこへの行き方は島の国キャスリンの王族が知っているのだ。2人は港町ケロットからキャスリンまでの乗船許可証をもらうため、船の所有者である王国マガラへ向かわねばならなかった。


そんな時、港町ケロットにてフードを被った少年の馬車に乗せてもらうこととなった。

◇◇◇


【本編】


—ラック砂漠~砂の国マガラ~


 「少年よ、君には感謝する」「ああ、本当だ。助かった」


 「いや、いいよ。エルフにとって砂漠を歩くのが、どれほど苦しいのかは知っているよ。君、氷のアシリアだろ?」


 アシリアは少年に弓を向けた。


 「なぜ、私を知っている」


 「やめてよ。そんな殺気だされたらイレクが怯えちゃうよ。僕の名はスレイっていうんだ」


 そういうと少年は馬車を運転しながらフードを取ってみせた。その頭には動物の耳が付いていた。


 「獣の耳!?」ギガウが驚きの声をあげた。


 スレイは再びフードを被った。


 「私は噂だけは聞いたことがある。最果ての森には動物の特徴を持つ人の村があるって」


 「ははは。アシリアさん、それはもうかなり古い話だよ。今はね、僕のように人間にまぎれて生きているものもいるんだよ。まぁ、数はかなり少ないけどね。ところで、おじさんは何て名前なの?」


 「お、おじさん.. 俺の名はギガウだ」


 「ギガウさんか」そういうとスレイは鼻をクンクンとさせる。


 「地の精霊の匂いがするね。ギガウさん、チャカス族でしょ?」


 「あ、ああ.. だがなぜチャカス族だと。いや、それより精霊の匂いがわかるのか?」


 「うん。僕らは何故かわからないけど精霊の匂いがわかるんだ。でもそれだけじゃないよ。僕らは耳と鼻と方向感覚がいいんだ」


 「スレイ、なぜ私たちを乗せた?」


 「さっき言ったじゃない。エルフが砂漠を歩く辛さを知っているからさ」


 「嘘をつくな。お前が私たちの前に現れたのは偶然じゃない。お前はずっと前から私たちの存在に気が付いていたんだろう。さっき、お前が自分で言っていただろう。精霊の匂いがわかる。そして耳と鼻がいいって」


 「 ....」


 「お前を責めているのではない。どんな理由であれ、私はお前に感謝しているのだ。だからお前に尋ねている」


 「いやあ、バレちゃったか。もう少し砂漠の真ん中でネタばらしをしようと思ってたんだけどさ。ふふん。お二人さん、魔石をかなり持っているだろう。それ払ってくれないか? この辺じゃ、親切心なんてのは皆無なんだ。それが嫌なら降りてもらおう」


 「な、なんて奴だ。身包み剥がそうってつもりだったのか? アシリア、まだ町には近い。こんな奴の馬車に乗ることはない。違う方法を考えよう」


 「わかった。私とギガウはお前にあるだけの魔石を払おう。その替わりマガラ国まで早く確実に運んでくれ」


 「おいっ、アシリア」


 「いいのよ、ギガウ。このままいきましょう」


 「 ..よし、約束だ」


 「まったく、なんて子供だ」


 呆れるギガウの手をアシリアは握った。そしてそのままギガウの胸を借りて眠りについた。


 スレイの感覚器官の鋭さは砂漠の砂に潜むラークマーズの存在にいち早く気が付き、その場を避けていた。そのおかげで能力を使う必要がないギガウにとってもかなり楽な旅となった。


 ラック砂漠を北西に進みながら、宿代わりになるミツメ樹の中で一晩を過ごし、マガラ国に着いたのは朝方の事だった。


 ほろ付きの荷台でアシリアはほとんどダメージはなかった。


 「スレイ、約束の魔石だ」


 ギガウは魔石の袋をスレイに差し出した。スレイはそれを受け取るとこう言った。


 「あんたら本当にお人好しだな。こういう時は交渉って言うのをするんだぜ。もう降ろされる心配もないのに素直に全部出すなんてよ」


 「いいんだ、スレイ。受け取ってくれ」


 アシリアが続けて言った。


 「まっ、そう言うんなら受け取ってやるよ」


 「じゃ、これでお別れだ」「ほどほどにしろ」


 アシリアとギガウは背を向けた。


 「....あ、あのよ、俺もケロットで、思ったより運送代もらえたしよ。少し..返すよ」


 アシリアとギガウは顔を見合わせるとスレイに振り返った。


 「いいのか?」


 「いいよ、アシリア。そ、それに、この辺の宿は高いんだ。何だったら僕、お、俺の家に泊まってもいいよ」


 「お前の家の方が宿より高そうだ」ギガウがからかう。


 「そ、そんなこと言うと、お前だけ有料にするからな!」


 「悪いな、スレイ。じゃ、泊まらせてくれ」


 アシリアがそう言うとスレイは頬を赤らめながら笑顔で家まで案内した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る