第14話 まずはセレイ村へ
【前話までのあらすじ】
マイル・レッタはペドゥル国でロスと『形のない宝石』に接触したとされるラリホ・ポーラの面談を画策していた。しかし、ラムダグによりラリホ・ポーラは殺害され、その殺害容疑者としてマイルは追われる身となっていた。面倒ごとに巻き込まれたと恨み節を言うマイルだったが、コーグレン家が身の安全を保障する約束で、雇われ密偵として協力してくれることになった。
◇◇◇
ロス・ルーラはラリホ・ポーラ婦人と面談をして、彼女が『形のない宝石』に接触した場所を特定しようとしていた。
場を設けてあげたにも関わらずロスは姿を現さず、その上、ラリホ・ポーラは無残に殺されてしまった。
そのような最悪な事態であってもマイルが『形のない宝石』のある場所を特定できたことは不幸中の幸いだった。
しかし、いつものことながらリジがその矛盾点を鋭くえぐった。
「マイル、あなた、その情報をラリホさんから聞いたわけ? あなたが、その情報を知った段階でロスさんに知らせれば良かったんじゃないの? そうすれば、『闇の従者』の不意打をくらうこともなかったかもしれないじゃない!」
リジはやや感情的にマイルに言い放った。
「今回、俺は情報収集が甘かった。それは否定しない。だが、勘違いしないでくれ。俺が地域を特定できたのは、あの日、ラリホさんの死体の近くに落ちていた首飾りを見たからなんだ」
「首飾り?」
「ああ、『深蒼石』があしらわれた首飾りだ。『深蒼石』はキャスリン国でしか産出されない高価な宝石だ。そして、彼女の足元に落ちていたひざ掛けもキャスリン国のレイサル編みで施された新しいものだった。つまり彼女が旅したのはキャスリン国だったのさ」
「なるほど.. マイル、突っかかってごめんなさい」
「いや、いいんだ。重要なのはそれを知ることが出来た事だ」
「じゃ、早速向かおうよ」ライスが声をあげた。
「ああ、だが、見た通り、俺は体一つで出てきてしまった。少し準備させてくれ」
「ちょっと待って、マイルさんも一緒に行くの?」
「ライスの嬢ちゃん。キャスリン国に行くのに俺ほど役に立つ奴はいないぜ。観光会社が諸手を挙げて欲しがる人材だ。それにな、俺はロスさんの依頼を全うできなかった。これは俺のけじめでもある。いいだろ?」
「もちろんだよ」
リジは内心ほっとしていた。旅はいつもロスを中心に3人で行動していた。だが、ライスと自分の2人で旅をすれば、そこにぽっかりと穴が開いてしまう。それをマイルが埋めてくれるなら、それはそれでよかった。
「じゃ、俺は自分の衣服と旅に必要なものを準備してくる」
「お金はあるの」
マイルはポケットから『深蒼石』を取り出し手で弾いてみせた。
マイルが買い物をしている間に、リジは新たな聖剣「空の羽毛」を使い剣技を磨くことにした。
そして、ライスは式紙に手を触れルシャラを呼び出した。
『始めるか?』ルシャラが開口一番言うと、ライスは力強く頷いた。
・・・・・・
・・
—3時間後
「ただいま!」
正面玄関からマイルの声が聞こえると、ライスは安堵した。
「き、今日はここまででいい? マイルも帰って来たし..」
「..まぁ、仕方がない。だが、今日の精霊の属性とその成り立ちはしっかりと復習しておくのだ」
「はい、先生。さっ、さっ、もうお帰りになって」
急かされて帰されることにルシャラは複雑な表情をしたまま紙に戻った。
ライスはマイルの帰りを知らせに、裏庭にいるリジを探しに行った。
そこには剣を構えながら精神を統一しているリジの姿があった。剣先に渦巻いている小石程の塊がある。何とそれは圧縮された空気だった。
「リジ!」
「え!? いけない!」
リジは慌てて剣を振ると、その塊を空高く放った。
—ボンッ
と音が鳴ると凄い風が上空から振り降ろしてきた。
「キャッ!」
「馬鹿! ライス! 急に話しかけないでよ!」
「ああ、ごめん。マイルが帰って来たから.. でも、何か凄いね」
「うん。あの空気の塊を剣に乗せれたら、どんな剛剣にも負けないかなって」
リジはバランス重視で軽くなった剣の欠点を補うため、日々、研究を怠らず続けているのだ。
「凄いな、リジは。 ..私、あまり頭がよくないからルシャラ先生の理論がよくわからないんだ」
「でもライスは実戦でいろいろ身に付けてるじゃん。とっさにいろいろ思いつくライスは凄いと思うよ」
「ありがとう」
「さ、髪を整えていきましょ、髪の毛逆立ってるわよ」
「あっ、でもリジだってボサボサだよ」
「あはは、ほんとだ」
帰宅したマイルは一晩掛けてロスが残した本を読みたいと言っていた。
そして、旅の前に『形のない宝石』の情報の出どころであるキースから話を聞きたいとも言った。
「それなら私たちも行くわ」
「いや、俺一人の方が身軽で速い」
「ダメだよ。セレイ村は歓迎する人を選ぶわ。マイルさんはダメだと思う」
「ライスに言われるのは何気に傷つくな。俺ってそんなに怪しい?」
「怪しいよ」間髪入れず、リジが追い打ちをかける。
「あのね、マイルさん。キースさんはロスさんと友達なの。ロスさんが600年生きていたというのなら、おそらくはそれくらいの付き合いだよ。そんなキースさんには、私たちからロスさんの死を伝えたい」
「..ああ、わかった。そうだな。ところで600年て、キース・レックは何者なの?」
「キース先生はハーフエルフだ」
「ハーフエルフか。密偵をしていた俺でもハーフエルフは2度くらいしか見たことない。珍しいな。そこでまた疑問だ。『先生』ってなんだ?」
「ああ、キース先生は私の剣の先生だ」
「なるほどね」
ハーフエルフは人間よりも警戒心の強いエルフに近い。マイルは彼が心を許している2人を連れて行った方が話が早いと判断した。
翌朝、3人でセレイ村に行く事になった。
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