第5話






 礼拝堂で吸血鬼の死体を披露するのは問題があるので、一同は表に出た。


「リリス様。これでもまだ私の妻がリリス様に対して嫌がらせをしていたと仰るのでしょうか?」



 こんな露出狂の痴女が公爵令嬢?


 王太子の婚約者?


 しかも未来の王妃?


 こいつ等をどうにかしない限り、この国の未来は暗い



 そんな事を考えながら、オデッセイアが王家から支給されたマジックポーチから取り出したのはサタナスの首と死体──・・・。


「「「「「!!!」」」」」


 このような形で証拠を示されたら、アネットの言っている事が真実で、リリス達が言っていた事は偽りだと語っているではないか。


「サ、サタナス様!サタナス様!!」


 何かが・・・おそらく先が尖っていた何かが刺さっていたのであろう。


 心臓の辺りを染めているのは鮮やかな赤。


 口端から漏れているのは一筋の血。生気のない瞳に映るのは虚空。


 サタナスの死体を直に目にした事で我を忘れてしまったリリスは、髪を振り乱しながら泣き叫ぶ。


「アネット!あんたにはヒロインのくせに人の心というものがないの?!そうよね!?サタナス様を倒した冷酷なあんたに人の心なんかあるはずがないわよね!!?」


 サタナス様はね、永い時間を生きている吸血鬼であるが故に孤独なのよ!


 そんなサナトス様は自分の心の孤独を埋めてくれる恋人を求めていたの!


 だけど、それは自分のエゴで恋人を人間の転生の輪から外す行為へと繋がるから、サタナス様はヒロインに惹かれていたのに、吸血鬼にするかどうかの葛藤を抱いていたんだから!!


「繊細で、誰よりも他人を思いやれる優しい心を持つサタナス様を登場させる為だけに、好きでもない攻略対象者であるこいつ等の婚約者を陥れたり、ソープ嬢だった頃に培ったテクを使ってまで攻略したあたしの苦労が台無しじゃないの!!!」


 は?


 リリスの涙ながらの主張に、その場に居合わせた者達の目が点になる。


「サタナスが優しい?他人を思い遣れる?繊細な心の持ち主?」


 優しくて他人を思い遣れる繊細な心の持ち主が、ゴーレム、ゾンビ、スケルトン、ハーピーといったモンスターを使って逃げ惑う人々を襲い、田畑を、森を、村を、町を、都市を焼き払おうとするだろうか?


 アネットがその事をリリスに言おうとしたのだが、彼女がそうする前にメフィスト達が口を挟んできた。


「リリス!私達が対して好きでもないというのはどういう意味なのだ?!」


「もしかして・・・リリス嬢は僕達ではなく、吸血鬼のサタナスが、好き・・・なのですか?」


 ふんっ!


「当然よ!あんた等のような生まれが王家や宰相でなかったら弱っちくて顔しか取り柄がないくせに、プライドだけは人一倍高い。しかも真性包茎で粗チンな男より、サタナス様の方が遥かに魅力的に決まっているでしょ!!」


 ちなみにこのドレスは、サタナス様の好みに合わせて作ったものよ!


 Σ(゚д゚lll)ガーン


 リリスの本音に、彼女が落した攻略対象者全員がショックを受ける。


「それなのに・・・あんたのせいで、あたしがサタナス様の永遠の恋人になるという夢が潰えてしまったわ!!」


 あんたを古代中国の・・・何とかという夫人と同じように手足を切り落としてから豚の餌にしてやる!!!(注:リリスが言っている何とかという夫人とは、戚夫人の事である)


「アネット!」


 サタナスを殺されたという事実を受け入れたリリスがアネットを殺そうと襲い掛かるのだが、妻を護る為にオデッセイアと衛兵達が彼女を捕らえると地面に押さえつける。


「痛っ!あたしは未来の王太子妃・・・王妃になる人間に対して、このような無礼が許されると思っている訳?!」


 攻略対象者の一人とモブである衛兵達によって拘束されたリリスが大声で喚き散らす。


「衛兵!英雄を陥れようとしたメフィストとリリス嬢及びバルバトス、アザゼル、ベリアルを縛った上で地下牢へと引っ立てよ!」


「はっ!」


「放してよ!あたしはアネットに殺されそうになったの!」


 あたしはサタナス様の仇を討つ為にアネットを殺さないといけないんだから邪魔しないで!!


「私を誰だと思っているのです?!宰相子息のバルバトスですよ!」


「王太子に対する無礼が許されると思っているのか?!」


 国王の命令を受けた衛兵達は、リリス達の身を拘束してから王宮へと連行するのだった。








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