第2話






 リリスの前世は榎木 美里という、自分の身体と顔をフル活用して男に金を貢がせるお水系で働く女性だった。(ソープ嬢で源氏名は【りな】)


 そんな彼女の楽しみは、ゲーム・漫画・アニメ・ネット小説で、この時期に嵌まっていたのが【ラヴァーズ~永遠の恋人~】という乙女ゲームだった。


【ラヴァーズ~永遠の恋人~】というのはアネット=アンダーソンという、平民でありながら聖魔法の使い手である家系に生まれた、見た目だけではなく性格も良しの彼女がヒロインだ。


 高い魔力を持っていたが故に両親と幼馴染みから引き離される形で教会へと引き取られた彼女は、聖女としての修行を受ける事になってしまう。


 数年後


 教皇により聖女として認定され、聖女お披露目の儀の時に四人の攻略対象者と出会うところから物語が始まる。


 四人の攻略対象者とは───王太子であるメフィスト、宰相子息のバルバトス、近衛騎士団長子息のアザゼル、伯爵子息のベリアルだ。


 聖女お披露目とは、聖女となった少女の為に行われるお見合いのようなものでありながら、結婚という形で彼女を国に縛り付ける儀式の一種でもある。


 メフィストを選べば王太子妃エンド、バルバトスを選べば宰相夫人エンドという風に、攻略対象者とのグッドエンドとバッドエンドとノーマルエンド、そして逆ハーレムエンドを埋めると二人の隠しキャラが登場する。


 一人はアネットの幼馴染みにして豪商の息子であるオデッセイア=シュナイダー、もう一人は吸血鬼の真祖であるサタナス。


 当然、この二人も攻略対象者だったりする。


 美里の推しは吸血鬼の真祖であるが故に、自分と共に永い時間ときを生きてくれる恋人を求めているサタナスだ。


 簡単に言えば【ラヴァーズ~永遠の恋人~】は、聖女が攻略対象者の婚約者による様々な嫌がらせ(というか、殺人未遂)を乗り越えて結ばれる乙女ゲームなのだが、リリスが前世の記憶を思い出したのは今から十一年前──・・・。


 鏡に映る蜂蜜色の髪に血のように赤い瞳を持つ少女の顔を目にしたと同時に、美里として生きていた時の記憶が一気にリリスの脳裡に流れ込んで来た。



 美人だが冷たくてきつい顔立ちをしている高慢な悪役令嬢のリリスが、淡い金色の髪にライトブラウン色の瞳を持つ優しそうな顔立ちをしているヒロインにして聖女のアネットに対する様々な嫌がらせがというより殺人未遂を婚約者にして王太子であるメフィストによって断罪された彼女は公爵家から勘当されるだけではなく乳房・腕・足を片方ずつ切り落とされた後、国外追放されるのだ。



 この世界はヒロインの為にある世界だ。


 このまま何もせずにいたら、ゲーム補正やヒロイン補正とやらが働いて悪役令嬢の自分は間違いなく勘当&国外追放されるだろう。


 当時、六歳だったリリスは考えた。



 どうすれば、自分は逆ハーメンバーである攻略対象者達に祝福される形で吸血鬼らしく耽美なサタナスの恋人になれるだろうか?



 と──・・・。


(そうよ!前世のあたしはナンバーワンの【りな】だったじゃない!!)

 リリスが思いついたのは、【りな】だった時に取得したテクを駆使して攻略対象者を落とした上で、ヒロインに冤罪を被せて国外追放するというものだった。


 幸いな事に、ゲームが始まるまで十年以上の時間がある。


 それまでに貴族令嬢に必要な教養とマナー、そして娼婦のようなセクシーさを身に付けた上で、フェラやパイズリ等で攻略対象者をものに出来るはずだ。


『全てはサタナス様の為!』を合言葉に、リリスは寝る間も惜しんで自分を磨いた。


 結果


 努力する方向を間違えたのか、或いはここが現実ではなくゲームの世界だという事に思い込みに囚われているからなのか、リリスには貴族令嬢としての教養とマナーは身に着かなかった。


 しかし、自分の色香とテクでバルバトス、アザゼル、ベリアル、メフィストを落とす事には成功した。



 そして、舞台はアネット断罪の場へと至る。






 ※ゲームでのシュナイダー家は成り上がりと言えばいいのか、華族のお嬢様を嫁さんに迎える条件で嫁の実家を援助しても十分に余裕がある財力を持つ豪商ですが、現実はヴァンパイアハンターという風にゲームと異なる点があります。





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