第13話 好きな人を見抜かれていた
下駄箱に入っているラブレターが入っていた。
「裏庭で会いたいです。○○時○○分に来ていただけないでしょうか」
入力された文字で、相手の名前は書かれていなかった。定は偽物のラブレターなのかなと思った。
指定された時間まで、五分しか残されていなかった。定は大慌てて、指定された場所に向かう。本命の女だったら、取り返しのつかないことになる。
裏庭では一人の女の子が待っていた。
「定、来てくれたんだね」
「ラブレターを入れたのは、松田さんだったのか」
「そうだよ。二人きりになる時間をどうしても確保したかったから」
女から完全に避けられた状態で、ラブレターを入れるのは歌姫しかいない。慌てていた男は、そんなことすら見抜けなかった。
「松田さん、要件は何なの?」
歌姫は小さく深呼吸をする。
「涼子のことが好きなんでしょう」
好きな人を見破られたからか、大きな咳を数回繰り返す。
「どうしてそれを・・・・・・」
「定の様子を見ていたら、うすうすはわかっていたよ。涼子に視線を向ける回数が多かったもの」
知らず知らずのうちに、好きな女の子を見てしまっていたのか。無意識というのは恐ろしいことを知った。
歌姫のスカートは、やや強めの風に揺らされた。
「定はどうするつもりなの。好きな異性が破局するのを待ち続けるの?」
定は首を縦に振った。
「うん。待ち続けるつもり」
歌姫は空に向かって、大きな息を吐きだす。
「そっか・・・・・・」
1パーセント未満の確率だとしても、好きな人に振り向かれるかもしれない。定は卒業するまで、諦める意思はなかった。
「松田さんはどうするつもりなの?」
「こちらに振り向いてくれるまで、ゆっくりと待つつもりだよ」
「頑固なところは似た者同士だな」
「頑固じゃなくって、一途っていうんだよ。一人の異性を想い続けるのは、とっても立派なことだよね」
「それはいえるかもね・・・・・・」
歌姫は肌が密着するくらいに、距離を近づけてくる。定は男の習性で、距離を取ることにした。
「定、逃げなくてもいいのに・・・・・・」
「痴漢扱いされたくないから・・・・・・」
痴漢一発で人生退場だ。女関係は細心の注意を払う必要がある。
「重要な要件がないなら、僕は失礼する」
「さ、さだ・・・・・・」
定の視界の先を、涼子が通り過ぎる。彼女といっしょだったら、すっごく幸せになれただろうな。
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