第12話 やっぱりこの人が好き(歌姫編)

 定はたまたま通りかかった看護師によって、腕の応急処置を受けることができた。そのおかげもあって、出血量を減らすことにつながった。


 男は傷害事件で警察に捕まった。今日で永遠の別れになることを、切に願いたい。


「松田さん、ケガはなかったか?」


「定が助けてくれたから、私は無事だったよ」


 定に会えていなければ、命を落としていたと思われる。歌姫にとって、命の恩人と呼べる存在である。


 歌姫は偽告白を仕掛けてきた、命の恩人をギュッと抱きしめる。


「松田さん・・・・・・」


「命を助けてくれてありがとう。あんなことがあったけど、私にとって最大の王子様だよ」


 包帯で処置した腕は、真っ赤に染まっていた。刺された腕の傷は、深いレベルに達しているのがわかった。


「松田さん、は、はずかしい・・・・・・」


「定、ちょっとくらいは甘えていいんだよ」


「は、はい・・・・・・」


 警察に遅れること一分、救急車がかけつける。順序は逆であってほしいと思った。


 救急隊員はすぐさま。定のところにかけつける。


「出血の量が多そうなので、病院で手当てを受けていただきます」


「わかりました。お願いします」


 定は救急車で運ばれ、歌姫の傍からいなくなった。あと一分、あと一分でいいから、ハグしておきたかった。

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