第6話 これでよかったはず(歌姫編)

 大好きな男に冷たい言葉で、関係解消を告げた。あんな言い方をしたので、学校を卒業するまで言葉を交わすことはないと思われる。


 心をリセットするために、胸に手を当てた状態で深呼吸する。嫌なことを忘れたいときには、こうすることが多い。


 リラックスを終えたタイミングで、みつあみの女の子に声をかけられた。 


「歌姫、どうかしたの?」


 島本涼子に簡潔に事情を伝える。


「大好きな人に偽告白をされたのか。歌姫にとっては辛い状況だね」


「彼の様子を見ていると、完全にノーチャンスなんだよね」


「今はノーチャンスだとしても、将来的にはどうなるかわからないよ」


「彼との関係は完全に切ることにしたの。今後は会話することもないと思う」


 涼子は目を大きく見開いた。


「随分と思い切ったことをするんだね」


「一人の男を引きずっていても、前に進むことはできないからね」


 強がってみせたものの、そのようにできる自信はなかった。高校卒業まで引きずって、ビッグチャンスを逃す予感がひしめいていた。

 

「歌姫はいろいろな男から好かれている。恋愛のチャンスはいくらだってあるはずだよ」


「いやらしい視線を送ってくる、体目的の男なんていらないよ。100人、200人から告白されても、OKすることはないから」


「相手から求められているうちが華だよ。需要がなくなったときに、必要とされることの大切さに気づく」


「好かれる人数は一人で充分だよ。二人以上の異性に好かれても、トラブルになるだけだよ」


 一方的に思いを募らせ、ストーカー殺人をする男は一定数存在する。そのような男に引っかかれば、あっという間にあの世行きだ。命を守るためには。不必要な男に興味を持たれないことは必須となる。


 歌姫は屋上に視線を向ける。私の心を苦しめた男は、どのような顔をしているのか。

  


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