メッセージの謎2

 玄関の側にあるロビーに出ると、一組の夫婦らしき人達が待っていた。

「あ、高橋さん。どうぞお婆様の部屋にいらしてください」

 先程三島さんと呼ばれていた介護福祉士が、その夫婦に声を掛ける。この二人が綾美さんのお孫さん夫婦か。二人共三十代後半に見える。旦那さんの方は白いワイシャツに黒いズボンを穿いていて、奥さんの方は、モスグリーンのワンピースを着ている。


 夫婦は「どうも」と言って廊下を歩き始めたが、旦那さんが不意に言葉を発した。

「あ、ハンカチ落としてますよ」

 旦那さんの方を見ると、廊下に落ちていた白いハンカチを拾ったようだ。白いハンカチには、「MIKA」と刺繡が施してある。

「あ、ありがとうございます」

 三島さんが、ぎこちない笑顔でハンカチを受け取る。三島さんの制服のポケットから落ちたハンカチらしい。


 涼太君は、そんな光景を何故かじっと見ていた。

「涼太君、どうしたの?」

「あ、いや、何でもない。……出ようか」

 こうして、私達は老人ホームを後にした。


 その後、東京に来るのが初めての涼太君の為に少し観光をしてから、ファストフード店で昼食を取る事にした。

 私達がハンバーガーを食べていると、店に一人の女性が入って来た。見覚えのあるポニーテール。三島さんだ。今は、白いパーカーにジーンズを身に着けている。

「あ、高橋さんの部屋にいた……」

 三島さんは、私達に気が付くとそう呟いた。

「先程はどうも」

 私は、微笑んで会釈した。

「せっかくいらしていたのに、邪魔をしてしまったようで申し訳ありません」

「いえ、お孫さん達がいらしていたようですし、丁度話のキリも良かったので」

 私は、謝る三島さんを慌てて制した。


 三島さんは、少し躊躇ってから私達に向けて言った。

「あの、もし良かったら、また高橋さんに会いに来て下さい。あの人、息子さん夫婦から絶縁されていて、お孫さん夫婦もあまりホームに来られなくて、寂しいようなんです」

「絶縁?」

 涼太君が思わず聞き返した。

「はい、あの……高橋さん、何と言うか……昔、嫁いびりをしてしまったようで……」

「嫁いびり……」

「はい。息子さんに叱られて目が覚めたみたいなんですが、その時にはもう関係は修復不可能なくらいになっていたようで……」

「はあ……」

 綾美さんは穏やかな女性に見えたが、昔そんな事があったのか。

「わかりました。高橋さんに聞き忘れた事もありますし、また伺います」

 涼太君がそう言うと、三島さんは「ありがとうございます」と言って席を離れた。


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