不自然な成績1
店のドアを開けると、軽やかなベルの音が鳴る。
「いらっしゃいませ」
六十代くらいの男性が私達に笑顔で声を掛けた。少しふくよかな体型で、黒い頭髪は少し後退しているようだ。白いシャツに紺色のエプロンがよく似合っている。
「あの、私、先日電話させて頂きました、篠宮美也子です」
「連れの小峰涼太です」
「ああ、お待ちしておりました。私が上坂周平です」
上坂さんは、私達を奥の席に案内してくれた。前もって電話でアポイントメントを取っていたせいか、私達の席のテーブルには『予約席』と印刷されたプレートが置いてある。
「それで、父と母が経営していたスナック『パラディソ』で起きた事件について知りたいとの事でしたね」
私達の向かいに腰かけて、周平さんは口を開いた。
「はい。祖母は、事件の事について話してくれなかったので……」
「申し訳ありません。私も、両親から何も聞かされてないんですよ。『パラディソ』で未解決の事件があった事自体は知っているんですが……」
「そうですか……」
「あなたから電話をもらった後、昔のアルバムとかを見ていたら、乃利子さん達が写った写真が出て来たんですけど、ご覧になりますか?」
「はい、是非」
私の言葉を聞いて、周平さんはエプロンのポケットから一枚の写真を取り出した。そこに写っていたのは、三人の男女。
向かって左に写っている、二十代くらいの大柄の男性が上坂雄三だろう。カジュアルな感じのする茶色いスーツを着ている。真ん中に写っている若い女性が私の祖母、乃利子だろう。ウェーブがかった焦げ茶色のロングヘアが特徴的だ。白地に花柄のワンピースを着ている。右側に写っているのは雄三の妻の未可子だろう。黒いロングヘアを垂らした、綺麗な女性だ。
「祖母の若い頃の写真を見るの、初めてです」
「そうですか。乃利子さんは、素直で働き者で、父達は彼女を可愛がっていたそうですよ。……よかったら、その写真、差し上げますよ。両親の写真は、まだまだ沢山あるので」
「よろしいんですか?ありがとうございます」
私は、微笑んで礼を言った。
その後も、祖母の小さな失敗談や、祖母と雄三・未可子夫妻が一緒に旅行に行った話などを聞いたが、特に事件に関する収穫は無かった。
「わざわざお越し頂いたのに、こんなものをお渡しする事しかできず、申し訳ありません」
「いえ……本日はありがとうございました」
そう言って私達が席を立とうとした時、店の裏口のドアが開いた。
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