最期の言葉2

 六十六年前、十九歳だった祖母が夕方出勤して店の鍵を開けようとしたところ、閉まっているはずの鍵が開いていた。店の中に足を踏み入れると、床に一人の男性が倒れていた。

 男性の名は長岡和也。当時二十六歳で、店の常連客だったらしい。長岡さんは頭から出血しており、すぐに死んでいるとわかった。祖母はすぐに警察に連絡したという。


 彼が何故開店前の店にいたのかはわからない。鍵は、前日最後に店を出た祖母が掛け忘れたと思われる。ちなみに、殺害されてから遺体発見まで二時間も経っていなかったらしい。

 警察による賢明な捜査が行われたが、結局犯人は捕まらなかった。そして、祖母は間もなく婚約していた祖父の元に嫁いでいった。オーナーも殺人事件があった店で営業を続けるのは難しいと思ったのか、しばらくして店を畳む事になった。


「現場には、割られたワインやウイスキーの瓶が散乱していて、床はお酒でびしょびしょだったらしいね」

 真剣な顔で涼太君が呟いた。


 実は、これだけの情報を手に入れる事が出来たのは涼太君のおかげだ。涼太君が、警察署のデータベースや当時の新聞等を調べてくれた。

 祖母の葬儀が済んでしばらくした頃、私が祖母の最後の言葉の意味を知りたいと電話で涼太君に相談したところ、彼はすぐに行動に移してくれたのだ。

 そして今日から三日間、私と涼太君は六十六年前の事件について調べる事にした。祖母の言葉とこの事件に繋がりがあると考えて。


 涼太君が、辺りをきょろきょろと見回した。

「道路は狭いけど、この店の入り口は、人の目に入りやすい位置にあるね。不審者が入ったりしたら、すぐにわかりそうだ」

「そうだね……。当時、目撃者はいなかったんだっけ?」

「うん。手掛かりはまったく無し」

 涼太君が、真顔で頷いた。犯人は、未だ捕まっていない。


「じゃあ、そろそろ上坂さんに話を聞きに行こうか」

 そう言って、涼太君は歩き始めた。最初に現場を見てみたいと涼太君に言われたのでここに案内したが、役に立っただろうか。


 人通りの多い道に出て五分ほど歩くと、小さな喫茶店が見えた。そこに、話を聞きたい人物がいる。祖母が働いていた店を経営していた上坂雄三・未可子夫妻は既に亡くなっているが、その息子の周平が何か知っているかもしれない。今見えている喫茶店は、その周平が経営しているのだ。


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