不自然な成績2

 中に入って来たのは、中学生くらいの少女三人。皆セーラー服を着ている。

「ああ、春奈。いらっしゃい」

 周平さんが声を掛けると、黒いロングヘアを垂らした少女が口を開いた。

「こんにちは、おじいちゃん。……また、二階で勉強会してもいい?」

「ああ、いいよ。後でお菓子を持って行くから」

「……ありがとう」


 そう言うと、春奈と呼ばれた少女は私達の視界から消えていった。どうやらこの店の二階部分は自宅になっているらしい。

 春奈の友人らしき他の二人の少女も、彼女の後をついて行った。

「やばっ、美男美女のカップル」

「羨ましい」

 少女達の呟きが耳に届く。私は、店内を見回した。客は三~四人いるが、男女のペアになっているのは私達だけ。……という事は、美男美女というのは、涼太君と私の事だろうか。

 涼太君はともかく、私が美女に見えるとは。確かに、涼太君と会うので髪をオシャレに緩く束ねて垂らしたり、メイクを頑張ったりしたけど。


「お孫さんですか?」

 涼太君が周平さんに聞いた。

「ええ、そうです。春奈といいます。……あの子、両親……私の息子夫婦とあまりうまくいっていないようで、たまにここに来るんですよ。勉強会をして友達に勉強を教えてもらう事が多いようですが」

「そうですか……」


 周平さんは、溜め息を吐いた。

「……あの年頃の女の子と、どう接していいかわかりません。成績の事で悩んでいるみたいなので、相談に乗ってやりたいのですが……。もしかしたら、学校のテストでカンニングをしているかもしれないし……」

「カンニング?」

 涼太君が眉をひそめた。

「ええ。……といっても、通知表に反映されないような、小テストなんですがね」

 そう言って、周平さんは話し始めた。


 数日前、今日と同じように春奈さんが友人を連れてこの店に来たらしい。そして、自宅部分のリビングにいる春奈さん達に周平さんがお菓子を持って行った時の事だった。

 リビングのテーブルには三人分のノートやら教科書やらが広げられていたが、周平さんが来ると、少女達はお菓子等が載ったトレイを置けるように片付け始めた。

 ふと周平さんが春奈さんの手元にある小テストの解答用紙に目を留めると、春奈さんは慌てた様子で小テストを隠した。

「……見た?」

「何を?」

 周平さんが何も気づいていないとわかって春奈さんはホッとした様子を見せた。しかし、周平さんはしっかりと見ていた。その英単語の小テストは――満点だった。


「満点なのに、隠すから変だと思ったんですよ」

 周平さんは、話を続ける。

 春奈さんは、普段から成績が悪く、春奈さんの両親が愚痴っているのを聞いていた。春奈さん自身も、「勉強が苦手で友達に勉強を教わっている」と言っていた。それなのに、急に満点を取るのは変ではないか。もしかしたら、カンニングしたのでは。周平さんは、そう考えるようになった。悶々と考えているだけで、本人に問い質す事は出来ていないようだが。


「でも、仮にカンニングだとしてもよくわからないのですよ」

 周平さんが、首を傾げて言った。

「通知表に反映される中間テストや期末テストならカンニングするのもわかります。でも、何故小テストだけカンニングするんでしょう?小テストなんて、あった事自体親に隠せるようななんでもない物なのに」

 私と涼太君は、店を辞するのも忘れて話に聞き入ってしまった。

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