そのお肉、口に入るまでに誰かが関わっている
ここにくるまでの間、ホントのどれくらいの時間歩いたんだろう?
会員制の温泉宿からだから、そのままそこに泊まってプラグちゃんの手作りなのか専属の料理人がいるのかわからないけど、見た目豪華な盛り合わせのサラダとパンとスープ。
スワップ旅団の船には1日しかいなくて夜と朝だけだったかな? そのすべてがジャガイモだけ。
でもベニスおばさんの蒸かし芋は絶品だったのは間違いない。
ジャガイモの日を過ごした後は津島の紹介による会員制の温泉宿。
船という安定しない環境はちょっと慣れるまでに時間がかかりそうだったけど、それにくらべたら安定した台地の上、地上に建つ施設はやっぱり凄く落ち着くし、安定感がある。
本来あたしは数日間なら食べなくても平気だけど、プラグちゃんのマッサージを受けたからか何かの影響かな? 異世界にきてエーデル島以来のまともな食事だった。
その後もなんだか規則正しい体内リズムになったのか? 猛烈な眠気に誘われて部屋を案内してもらいストン♪ と眠っていた。
気がつけばプラグちゃんに起こされ、津島と共に山登り。
そして今に至る……。
ちゃぽん……。
「そうね。津島がいいお肉捕ってきてくれるかもしれないもんね」
プラグちゃんが津島がそろそろかえってくるかもというので、露天風呂から上がることにする。
プラグちゃんに用意してもらった着替えに身を包み津島の帰りを小屋の中で待つこと数分。
温泉からでて着替えたら直ぐ! というタイミングだったんだけど、津島が
『今日は大漁だ!』
と小屋の外に牛?
見た目牛にそっくりな動物を横たわらせ盛り上がっていたのだ。
まるの牛。 これどうするのよ? と疑問に思っていたら津島がプラグちゃんを手招きして呼ぶ。
……。
いつの間にか用意されていた包丁にノコギリ、さらにハサミと それらが用意されていて津島とプラグちゃんの二人が解体しようとしていた。
「日が暮れる前に終わらせるよ」
「わかりました」
二人のその会話を聞いてあたしは脱兎の如く小屋へ(逃げる。
「ちょっと待って!」
逃げようとした。
「朝立! 待つんだ!」
その場で呼び止められ小屋の入り口、踊り場の階段に足をかけて津島とプラグちゃんに背中を向けたまま立ち止まる。
「今回はいい……。 だけどこれは命を頂くことにおいて重要なことだ。 元の世界では、こんな解体なんてする機会もなく俺達はいつも何かの命をいただいている。 だが異世界に来たからには、必ずこれができなければならない。 これは命との向き合いだ」
と、元の世界にいた頃、当たり前のように食べていた肉に対する向き合い方を語ってくる津島。
それもそうだ。 確かに、あたし達が普段から口にする肉のすべてはどこかの誰かが日々、動物を殺し解体しそこから食べられる部位に切り分けて用意してくれている。
そんなのはわかってる。わかってるけど、無理!
無理なのは無理。
だけど命との向き合いと言われると後ろ髪を引っ張られる気分。
せめて魚とか鳥だったらまだしも、いきなり牛みたいな大型動物は正直無理!
津島とプラグちゃんが
肉をドチャッと切り開く音やぐちゃぐちゃと何かをかき混ぜる音、ピューと何かご吹き出る音……。
さらにはノコギリで何かをギコギコと切っている音を耳にしながらあたしは小屋の中へ退避。
「命との向き合いだなんて、あたしだって家庭科の授業や調理実習で魚くらい捌いた事あるんだからね!」
なんで鳥とか魚じゃなくてハードルが上がって牛なのよ!
しかもあんなにデカイ牛! 無理に決まってるじゃない!
あたしは一人ごとのように呟く。 大型の動物を捌くなんて経験はないしもちろん一人でやった事はおろか誰かとやったことなんてない。
でも調理はした事はある。
ピンク色の肉塊を包丁で切って煮たり焼いたりした程度。
解体作業まではできなかったが、その後の調理には手伝いにいく事を決める。
「まぁ、大型だからな、これだけあれば大丈夫だろう、あとの分は保存用にして埋めればいいかな?」
「わかりました。 いつものように穴掘って埋めときますね」
と、どうやら食料としての解体作業が終わり必要な部位だけとり、あとは埋めとくとの事。
そろそろ顔をだしてもいいかな? と、小屋の外へと何気なく出ると。
夕焼けで赤く染まった地面を上書きするような血溜まりと、服も顔も沢山の血を浴びて、血みどろの津島と、顔に着いた返り血をペロリと人舐めするプラグちゃん。
…………。
ドサッ……。
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