アリアを超えている団長の演奏

漆黒の闇の中、ザザーンと音をたてていた並みの音がいつの間にか消えていたと同時、船の揺れがなくなる。


 耳から入ってくる音が脳内に直接響き音が震えているのがわかる。


 背筋がゾワゾワとむず痒くなり、耳の中で音が暴れまくっているのもわかる。


 ーー-ー音の圧力。


 団長、ディックが演奏する音色がすべてを抑えつけるように響いている。


  しかも、展望デッキを中心に船の周辺に壁を作っているかのように刺さるような潮風も遮られている。


 あたしの本気を体現している演奏に、背中を向け演奏している。


 その所作には余裕たっぷりの自信を感じられ涼しい顔で演奏しているのがわかる。


 「奏人の演奏ってうちの団長より凄いんでしょ?」



 団長の背中を見ながらバーニーとあたしの二人、

 バーニーの問いかけにグゥの音もだすことができず思わず口ごもる。


 自分との比較よりもアリアとの比較をするならばディックの方が上回っている。


 その理由としてピアノの

演奏、しかも洋上での演奏よりも環境、これだけの状況を作るのはアリアには到底できないのは明白。


 その一方であたしとの比較をするならば、自分が如何に周りをみれていなかった事、世界を知らなかった事を痛感。

  

 ーー来いよ次代の奏人さん、全部わかってるよ。教えて欲しいんだろ?ー-


 団長の演奏に耳を傾け世界の広さを痛感していた時だ。


 ディックの演奏の間奏部にメッセージが込められているのがわかる。


  ディックが座る椅子の片側が開き、ソコをポンポンと叩いている。


 正直悔しい! 自分が本気を出せない状態であるのと含めてこの環境下で思うような演奏ができない事に……。



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