洋上での演奏は難しい?
~♪♪♪~♪♪~♪~
鼻をくすぐる潮風と水平線の彼方彼方から泡立つ水しぶきが全てを飲み込むように迫り、船に到達するころにはザパーンと沈み込む。
打ち寄せては引いて、打ち寄せては引いて、一定のリズムで到来する波の音をアクセントにしながらバーニーはピアノの鍵盤を叩く。
波は揺れをものともしないどっしりと座り、微動だにしない演奏に迫力を感じる。
心に伝わる音と振動が心地よい。
「ピアノを制するものは海を制し大海の船を統べる。
これは団長の言葉。 団長もたまに演奏することあって団長には及ばないけど、あたしも少しは弾けるんだけど、どうかな?」
と、船上のピアノを弾いて見せたバーニー、思わずその音色に、聞き入ってしまって、なにも考えてなかったなんていえない。
「波の音に打ち消されずにそのどっしりとした音と、響きが凄かったわ」
ありきたりな感想しか言えないけど、次はあたしの番……。
潮に曝されているとは思えない程手入れがされていて、音色も屋内にある仏通のピアノと全くおんなじ、そして、鍵盤の肌触りも指に馴染む。
音をテストするために軽く鍵盤を叩く。
バーニーが演奏していた感じでは、変な癖があるわけではなさそうだ。
揺れる船上の上、頰を撫でる潮風と波の音を感じながらユラユラと揺れる船上でゴクリと唾液を飲み込むと一呼吸、鼻からスゥゥと吸い込み鍵盤の上に置いた指先を踊らせる。
トン! と鍵盤を叩くと規則正しく並んでいる白鍵が沈み!音を響かせるのだけど、あたしは微妙な違和感を感じる。
音はキチンとでているし、 ピアノ自体もキチン調律されている。
だけど直ぐに音が掻き消えるような、音が響いているのに音色が潮風に流されているような感触。
日本だったりエーデル島だったり、今までピアノを演奏していた時のお作法が通じない状態。
もしかしたら、本気をだせたあたしならこんな状況に陥っても気にせずいつも通りの演奏が出来たハズなんだけど、演奏するための状況がちょっと変わってしまうだけで、違和感を感じて戸惑ってしまう。
「あ~、やっぱりかぁ、屋内奏者と屋外奏者の違いだよねぇ」
あたしが、鍵盤の前に座り戸惑っているとバーニーが口を開く。
「カノン様の耳や腕が悪いってワケじゃないんだ。 野晒しでキツイ潮風、そして常に移動している船の上だとどんな奏者でもそう感じてしまうのさ」
と、あたしが感じる違和感の正体に解を口にする。
「今夜、久しぶりに団長が演奏するから聴いてみるといいよ。」
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