ちょっと刺されただけで死ぬ事はないだろうけど

わかんない! 何がなんだかさっぱり……。 話しについていけないというのが本音。


 トトト、そんな事より今は時間がない! 

あたしは立つことがままならぬまま身体を引きずり長老の元へ向かう。


 

本来ならあたしのパートナーとしてアリアの側につかなければならないのはわかっている。

 

 だけどあたしにとって、長老は唯一の理解者。

あたしが知らないところで何がなにしてなにになって

 どんな企みをして悪事を働いたかはわからない。

 

 だけど、あたしの理解者というウェイトは大きい。

 アリアとのパートナーうんぬんよりもあたしの理解者であると言うこと……。



違う。 今はそんなことはどうでもいい! 人命最優先。

 

 「カノン様……。私はもうダメだ! きっとバチがあたったんだろう。」


 あたしが、長老のもとにたどり着いた時には長老は既に虫の息。


  息も絶え絶えに聞こえる言葉もなくなり、呼吸が浅くなっていくのがわかる。


 「アリア! お願い! 回復魔法」


 長老を殺した犯人に回復を頼むなんておかしなはなし。


 長老はもう助かる見込みがない?

 そんなことはない。


 人間、ちょっと刺された程度で死ぬことはない。

 

 それに心臓を一突きしたわけではないし、アリアが刺した短刀はまだ刺さったまま。


まだ、なんとかなるはず!

 

 「アリア!」


 あたしはアリアの名前を思わず叫ぶ。

 

 ……。

…………。


 アリアからの反応がない。 まだ助かる! まだ助かるハズなのに……。


 時間がない。



 カノン様……。

 

 あたしがアリアに回復をお願いした直後。あたしの耳に聴こえる小さな声。


 アリアの声ではない。


 いったいいままでどこをほっつき歩いていたのか?

 あたしをこの世界に連れ込んだ張本人。


 異世界ツアーの頭のおかしいツアーガイドの水野エルの声。

 

 儚い声であたしの名前を呼ぶ。


 頼ることなどできない無責任な頭のおかしいツアーガイド……。


 今はそんな事はどうでもいい。 人命救助が最優先


 儚い声であたしを呼ぶエルに、あたしは応える。


 「エル!」


 大きな声で頭のおかしいエルを呼ぶ。


 

 この大聖堂はアリアが立ち入り禁止にしている。しかも今日は島内でエルを見掛けただけで、その後は全くの別行動。


 頭のおかしいツアーガイドが都合よく現れるはずがないと思っていた。


 「カノン様、お呼びでしょうか?」


と、ひょっこりそこにいた。 


 「エルお願い!」


 あたしはただ一言ひょっこり現れたエルにそれだけ言う。


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