おとなしかったアリアの豹変

あたしの正面、アリアは頬を濡らしたまま目を閉じている。


 聖堂内に響いていた音は直ぐに掻き消えると同時、閃光もただの揺らめく炎の灯りに変わり沈黙の空気に包まれようとしていたのだが……。


 「素晴らしい! 魔王の残したレクイエムをここまで完成させるとは思わなかった!」


 リバースヘッドの長老が意気揚々と立ち上がり手をたたく。


 手を組んでいたアリアの目がパッと開眼、


 「これで私もこのエーデル島から大陸へ行くことが出来る……クックックックックック!」


 

 どういう事? この曲が魔王が残したもの? 未完成の曲目? 


 それをあたしが完成させた?


  話しについていけないんですけど……。


あたしの視線はあたしの理解を越えた長老を見つめていたその時だ。 視界の外、意識の蚊帳の外、一瞬、何かが煌めき次の瞬間。


ーードスッーー


 鈍い音と共にアリアの両手が長老のお腹に吸い込まれるように接触。


 「グフゥ゛ゥ゛ッ!」


 長老が呻き声をあげると共にその口から鮮血が吹き零れる。


 アリアの手元には握られた刃物が見える、そしてその刃先から溢れるように長老のお腹から鮮血が滲みでていた。


 …………。


 一瞬の出来事であたしの思考が停止していたけど、その思考は即座にアリアが長老に刃物を刺した事を認識。



 長老の救助!? それともアリアの拘束!?


 一体なに? ワケがわからない。あたしは椅子から立ち上がり直ぐにその場に駆け寄ろうとしたけどダメだった。

 

 足に力が入らない。 椅子から立ち上がった瞬間にあたしはその場に崩れてしまった。


 「「わたしは知ってるは! あなたが父をこの、エーデル島から追放した事実、父は魔王なんかじゃなくて、あたし達と同じ人間! それを魔王に仕立てあげての茶番! 父を追放しただけではなく、母をも共犯者として仕立ての死刑! あなたがこの島を手に入れるためだけに、そこまでしていいはずがない! あたしは全て知っています。 何故なら全てを見ていたから……。」


 アリアは刃物の柄を握りしめたまま長老を刺し慟哭。

  

 積年の恨みというものなのか?

 

 あたしが知ってるアリアとは全く違う側面。


  「あの……。 一介の魔導師ごときの腰抜けなんぞにこのエーデル島を渡す事なぞできないのだ……。だがもう遅い! エーデル島の真の力は我にあるのだからな……。グハッ」


 アリアの慟哭に応えるかのように長老は叫びアリアを突飛ばし腹部に短刀が突き刺さったまま後退り、その場に倒れ混む。




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