奏人の役割は寄せパンダ的なマーケティング?

まさか異世界転移ツアー二日目で、あたしに奏人という大役を与えられるとは思っていなかった。


 昨夜、あれからアリアとのデュオを終えた直後だ。


ヌードバーの客席は拍手喝采に包まれ、客席からは大歓声が響いた。


 さらにいえば、ヌードバーから聴こえるあたしとアリアの演奏を聞き付けたヌードバー周辺の人々が集まり、お店の外にも人が集まるというハプニングが発声。


 そんな中でこの島の長老は、『わっはっはっはっはっ!』


 と、笑いながら手を叩くとあたしに奏人を任命したのだ。


 その後に関しては飲めや歌えやのお祭り騒ぎとなり、熱烈なアンコールに応えながら食事を楽しんだというワケだ。


 「奏人というのは、外海の大陸からきた人達にこの島の奏者の実力を知ってもらうための演奏、簡単にいえば宣伝の役割をするのが役割です」


 と……。 波の影響を受けながら船頭さんの操るゴンドラの上。

 


 「奏人が二人になるなんて聴いた事がなかったけど、昨夜のヌードバー凄かったみたいだな。 オレも仕事がなければじっくり聴いたのに、ホントに残念だよ。 カノンちゃんとかいったっけ? 奏人になると毎日忙しくなるから大変だよ、おじさんも応援してるから頑張るんだよ」


 と、昨晩の演奏が船頭さんの耳にまで届いていて、おまけにあたしが奏人になった事まで知っていたようだ。


 チャプチャプとゴンドラが揺れながら遠目に見えるのは、トゲトゲしい尖塔のシルエットの魔王城跡地の大ホール。


 「つまり客寄せパンダ的なものなのかな?」


水路からの上陸を目前にあたしは呟く。


 「客席パンダ?」

アリアは客席パンダの意味をしらないようで、聞き返してくる。


 「あたしがいた世界ではなにかをアピールするのに実際に物を見せたりさわらせる事で人を集める事を客寄せパンダという場合があるの」


「客寄せパンダ……、ちょっと違うかな? 奏人の役割は客寄せパンダの側面もありますけど、島民の奏者のレベルをあげなければなりません。 そのために奏者を目指す人の指導や訓練、教育が重要になってきます」

 と、奏人の役割が宣伝ではなくトレーニングが主だとアリア。

  

 「そうですね、奏者をカノン様と同じレベルにさせる、あるいはそれに近い状態にするのが、奏人の役割です」


 ん? んんん? それはつまり奏人のアリアやあたし達が大陸に連れてかれるという事ではなく、大陸へ稼ぎにいきたい島民? 


 あるいは大陸の誰かさんに気に入ってもらいたい人がいるってことなのかしら?


  「ええ、毎年この島から沢山の人が大陸行きを希望したり大陸へと連れていかれたりする人がいますし、その逆に大陸からピアノの練習にくる人も居ます」


 と、どうやらあたし達が生け贄のような存在ではないことに安堵……。


 「ですから、大変なのはこれからです」






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る