『あなたに決めたわ!』


異世界トラベルぢゃらん第四話




  あたしの指は鍵盤の上では踊るように舞い、一音一音響き渡る音を奏でている。


 さながら蝶のように舞い蜂のように刺すという言葉がピッタリ。


プロ奏者を超えた演奏というのは人の感情を支配し体感すら支配すると言われている。


  あたしはそれをやって見せ、徐々にその支配が解除され感覚が元に戻ると聴こえて来るのはさざ波のような柔らかな音色に包まれているはずだ。

   



 そして最後、鍵盤を撫でるように指を揃えてフィナーレ……。


…………。




  


満場一致のスタンディングオベーション。 万雷の拍手に見送られてあたしは舞台を後にする。


 舞台の袖から控え室に戻ってる最中、万雷の拍手はアンコールを求める声に変る。


 だけど残念だ、そのアンコールには応えることはできない。

 

控え室に戻るとあたしにコンテストの替え玉を頼んだアリアに 「ありがとう!カノン様。 本当にありがとう! 貴方に頼んで正解だったわぁ!」


  と控え室であたしの演奏を聴いていたアリアがあたしに抱きついてきた瞬間だ。


ーギュルルルルル! バギャン!!ー

 と激しい音。



あたしが演奏していたピアノの弦が全て切れてしまったのがわかる。 


 アンコールに応える事ができない理由はまさしくこれだ。


あたしが本気を出して演奏するとピアノの弦が必ず切れてしまうのだ。

 

 だから当然、大観衆がアンコールを切望してもそれに応える事はできないし、あたし自身がアンコールに応えたくてもそれは不可能なのだ。


 「な……、なんの音? 一体なに?」

 

 ピアノの弦が切れた音を聴いて、あたしの胸に顔を埋めていたアリアも首を動かし虚空をみつめハテナ顔になるのだが、それも束の間。

 

 「カノン様、アナタに決めたわ! カノン様にお願いがあるの!」

 

パアッと表情を変えるとあたしの手を引っ張り控え室を飛び出し魔王城を飛び出す。


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