ピアノクラッシャーは伊達ではない!
夢にまで見た大舞台。
この大舞台でこうして演奏が出来たのは奇しくもこの魔王城でツアーガイドの水野えるのおかげだ。
島内の案内が終わり今日はちょうどコンテストが開催されている。 ということで、飛び入りさんかは認められていないが観客として、ということでこの魔王城へ入った。ツアーガイドの案内の下、観客席へと向かったのだが、ツアーガイドと見事にはぐれ、あたしは迷子になってしまった。
せっかくだから、ということであたしは迷子の振りをして城内を探索していた。
さすが、魔王城という事だけあって、迷宮のような作りで完全に迷っていた時だ。
どことなく見覚えのある女の子に声をかけられて手を取られる。
あたしの指先をマジマジと観察されて
「ねぇ、お願いがあるの……」
と、ワケアリな表情で……。
「私の代わりに舞台にでて欲しいの……。」
突然の事で何がなんだかわからず、あたしは彼女のワケありの表情に断る事が出来ず二つ返事してしまった。
そこからはポンポンと話しが進み、彼女が着ていたドレスに着替えさせられ課題曲の説明とそのあとは自由に、演奏してくれていいということであたしは舞台に立つ事になったのだ。
…………。
課題曲の最後の小節を引き終わり、何事もなく演奏し終えたところで、あたしは安心しながらため息を付く。
もちろん、普通に演奏しただけ。 普通に、あくまでも普通に大人しく演奏しただけだから、この程度でピアノの弦が切れることがないことはわかっていた。
もちろんあくまでも課題曲……。 されど課題曲。 もちろんあたしはコンテストで優勝を狙えるような演奏をしたつもりだし、他の奏者と比べれば段違いの演奏を見せた。
さてと……。続いて自由曲なんだけど……。
これが今生最期の演奏になるかも知れないことを思いながら、全力を出すことに決めた。
演奏を聴いてもらう審査員や観衆との勝負ではなく、もちろんピアノ本体との勝負。
もちろんピアノがあたしの演奏に耐えられないことなんて百も承知。
あたしのピアノクラッシャーの異名は伊達ではない。 この勝負はピアノがどれだけあたしの演奏に、耐えられるか? が肝。
ピアノが壊れないようにピアノを労って演奏するつもりは微塵もない。
(最期の終止符まで持ってくれたら嬉しいな……。)
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