第2話 久しぶりの感触
「次はアリア=エーデルさんどうぞ!」
アリア=エーデルの名前がついに呼ばれる。
あたしの番だ。舞台の袖から一歩を踏み出して堂々と歩く。
ステージを見つめる大観衆の目線に刺されるのがわかる。
中学時代、四年振り……。 もう、こんな機会が不意に訪れるなんておもも見なかった。
ちょっと露出度の高い世界の空いたヒラヒラのドレスを翻し、下半身が妙にスースーする感触を味わいながら、黒光りする漆黒のピアノの前へと到達。
パッと見、この世界へ転移する前の世界、日本にあるピアノとなにひとつ変わらない。
一礼し、椅子に座るとすぐ目の前には白と黒のモノトーンの鍵盤が並んでいる。
あたしの演奏を待つ数百人の観衆と数名の審査員。
念のために持たされた楽譜を譜面台に置くとあたしは鍵盤に指を添える。
鍵盤の感触も元の世界と変わらない。
このピアノがどれだけ頑丈なのかはわからない。
だけどあたしはこのチャンスを決して逃しはしない。
譜面を見ずに第一音、鍵盤に添えた指で叩き音を奏でる。
そうそう! この感触!
あたしは懐かしむように
指先を動かして課題曲を演奏する。
はじめて演奏する曲目だけど、譜面なんていらない。 一度聴いた事のある曲ならその場で完コピ出来る。
この島に来た時に聴いたウェルカムミュージックと間違えて思わず聞き入ってしまった曲。 さらには順番待ちで何度も聴いたから全然余裕。
あとはこの曲を最後まで演奏しきること!
あたしの身体は素手に燃えあがっている。
下半身から背中にかけて走る電流が脳天を突き抜けるように熱い。
この感触! この感触よ! 鍵盤を叩けばそれに合わせて内部のハンマーが弦を叩き音を奏でピアノ本体が、音を広げて響かせる!
フットペダルも操作して音を伸ばしたり緩急もつけたり。
演奏の合間の間もわざと長引かせたり縮めたり……。 その都度大観衆を虜にするために身体だけじゃなく、表情も色っぽく妖艶に表現。
だけど、楽しい時間はここで終わり。 あと数小節でこの課題曲も終ってしまう。
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