第8話 運命の午後3時

 ヒナは叫び続ける。

「あと1時間も無いよー。にーげーてっ、それ、にーげーてっ」


 レスキューは怒りを露わに登ってきている。

 最初のワイヤーを上手にかわしてきた。


 陽翔はるとが焦る。

 わわ、さすが精鋭部隊。

 ワイヤーに触らずに登ってきたよ。


「ヒナー、第一ゲート突破されたー」

「だめえ、陽翔、断固阻止してえ」

 できるかってーの。


 - 864 -

 - 851 -


 よし減ってきた。0になるまで頑張るぞ。


 TVでは気象庁の会見が始まった。

「えー、今日の午後から東京都直下の微動地震が起きています。念のためご注意ください」


 群衆は警察が促し、散り去っていった。

 しかし、TV中継でヒナとレスキューの様子はなおもアップで映され続けている。

 もう15分くらいしかない。


「ヒナー、第二ゲートも突破されたー」

「何やってるのよ陽翔、阻止してってば!」

(あんな筋肉連中、どうすることもできねえよ)


「レスキューのみなさん、彼女に近づくと、彼女が落ちるかもですよー」

 陽翔の忠告は完璧に無視される。


 しかし、ヒナの呼びかけに応じて数字は頑張って減ってくれている。

 結構な人数の都民がこの場所から離れていっているようだ。


 - 743 -

 - 625 -


 しかし屈強なレスキューチームがついにヒナに近づいた。


「ヒナ、だめだあ、最終ゲート意味なーし。あとはがんばれー」


「陽翔っ、何を頑張れだよー。このお兄さんたち怖いよー」


 もう時間がわずかになった時にヒナはレスキューに捕まった。ヒナが叫ぶ。


「ギャー、ヤメテー。触るなエッチ!」

「こら、騒ぐな、抵抗するな」

「やだー、襲われるー」


 ヒナの叫び声と混乱した現場が全国生放送されている。画像でめちゃくちゃになっているヒナの様子がよくわかる。


 レスキュー3人に体を捕まれて命綱を無理やりつけられ、顔とスマホを持った手だけを上に出したヒナが最後の抵抗を試みていた。


 スマホに3:00という時刻と500という数字が表示されたちょうどその時だった。


「ゴ・ゴ・ゴ……」


 低音が鳴りひびき、大きな揺れが襲ってきた。

 ヒナもレスキューも目をまん丸にしてタワーにしがみついた。

 レスキューは命綱をさらにきつくして揺れに対抗した。


「キャー、キャー」

 タワーは縦に横にすごい揺れに襲われた。

 まるでカクテルのシェークのようだ。命綱がなければ、一瞬で落ちているだろう。


 東京中が突然の直下地震に恐怖に包まれた。

 揺れは何度か立て続けに起きた。


 5分後ようやく揺れが一息ついた。タワーに登っていた全員が青ざめながら命からがら下に降りた。想像していたはずの陽翔も驚いた。本当に大地震だ。


 ***


 震度7。大地震ではあったが、高層ビル群は幸い倒壊に至らず大きな火災も起きなかった。しかしやはり都心の大地震。多数の人が亡くなり、負傷した。


 その死者数は500名。驚くべきことにヒナのスマホの数字と一致した。

 彼女を笑った全ての人が彼女に謝った。彼女が言う事は完璧に正しかったのだ。


 ヒナは再びタワーに出向き目を瞑り、犠牲者に手を合わせた。

「守れなくってごめんなさい。力不足でした」


 しかし、それでも彼女は500名以上の被害者を救ったのだ。

 それも自分たった一人の力で。

 

 あ、一応言っとく。陽翔はるとも協力ありがとうね。

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