第6話 ヒナの作戦

 ヒナは1年前にまさにこの場所で撮った写真をじっと見つめていた。写真の日がついに来た。今日、ここで何かが起きる。必ず起きる。


陽翔はるとっ、写真を撮った時間は午後3時だよっ! それまで全力でやるからねっ!」


 陽翔は少し弱々しい様子で答える。

「ヒナ~、本当にやるのか~?」


「もちろんよ! ちゃんと手順覚えてる?」

「覚えているけどさあ。どうなることやら……」


 午前10時、作戦は決行された。


 二人は歩道橋のタワーに登り始めた。

 陽翔は撮影機材を担いでいる。

 SNSでのライブ配信を行うためだ。


 タワーの途中で陽翔はトラップのようなワイヤーを張り巡らし始めた。


 通行人が何人か気が付いて二人を見上げている。やがて警備員も駆け付けてきた。

 「おーい、何やっているんだ! そこに登っちゃだめだぞ」

 警備員が叫ぶが、ヒナと陽翔は無視して作業を続ける。


「陽翔、ワイヤー張り終わった?」

「ヒナ、終わったよ。三重のゲートだ。でもほらもう人が集まり始めたよ、嫌だなあ」

「出だし上々じゃん。沢山集まった方がいいからねっ! もっと集まれ、そして逃げてっ」


 ヒナは大きなメガホンを振り回し上機嫌だ。そして彼女の腰にはワイヤーが繋がっている。命綱だろうか?


 二人はさらに上に昇り、撮影機材をセッティングした。ライブ配信はいつでも開始できる。


 警備員から通報を受けて警察官が来て、タワーを登り始めた。登るのに邪魔なワイヤーのところまで登ってきて上の二人に叫ぶ。

「おい、お前達、降りるんだー」


 すると陽翔がすかさず返す。

「あーおまわりさん。すみませーん、そのワイヤー気を付けてください。彼女と連結されていて下手すると彼女が落下しちゃいますからねー」


「なにい? 適当な事を言うな、こんなもの」

 撤去しようとした警官に別の警官が言った。

「おい、ワイヤーに触るな。万が一、言っていることが本当だったらまずい」


 警官たちは仕方なく降りて行った。


「さて、準備は整ったね。ほら人も増えてきた。スマホで撮ってくれているよ。ライブ配信始めよっか。陽翔、開始よろしく」


 ヒナは野次馬達を見下ろし、息を思いっきり吸い込むとメガホンを使って叫び始めた。


「みなさーん、こんにちは! 不破ふわヒナです!」


 下では「誰だよあれ?」「知らん」とがやがやし始めた。


「今日は重大なお知らせがあります。皆さんの命に関わりますのでしっかり聞いて下さいねー」


 陽翔は大きな垂れ幕を下ろすと赤面した。

 かなり恥ずかしい。こう書いてある。

 << ヒナの予言:今日3時!逃げて! >>


 下では「何かの広告?」「逃げてって書いてるよ」と呟かれている。その映像もライブで流れている。


「みなさーん、今日のー、午後3時にですねえ」


 ヒナは一言ずつ、大きな声で宣言する。


「ここでえ、なんかが起きまーす」


 下から「大災害って何だよ?」「何を根拠に」と聞こえる。ヒナはそれに答えた。


「私の予想では、地震だと思うんですー。それからねーエビデンスはレポートを作っておいたから見てねー。配信中の画面にURLのリンクつけてるからねー」


 ヒナは5分おきに「3時に何かが起きまーす、逃げてえ」を繰り返した。


 やがて、多数の警察/消防車両とテレビ局の報道部隊が集まり始めた。陽翔は諦め顔で思った。(ああ、来るところまで来てしまった)


 何かが起きるまで、あと3時間。

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