第2話
「おい!君達、そこで何をしている!」
ざわめき
ほんとに兵隊さんが来ちゃった……。
歩哨たちは国境線によって分断された形である。イエヴァの側とクルトの側。恐らくそれぞれ所属も違うのだろう。国境線のこっち側、
「ここがどういう場所なのか親御さんから教わっていないのかね。そうで無くとも、子供二人でこんな時間に森やらをほっつき歩くとは、危険じゃないか。──君たちがここ居たことは御両親に報告させてもらうよ。たっぷり叱ってもらわなくては、さあほらこっちへなさい。」
歩哨の言葉は、そこはかとなく子を想う保護者のような面持ちであったが、やはり怒りの混じった語気で少年の腕を引こうとする。クルトにはそれを振り払う気力も無く、掠れた怯え声を小さく発するのが精々だ。
「おいおいジオ、そこら辺で勘弁してやれ。まだほんの子供じゃあないか、怯えている。」
男がクルトの腕を掴む
「……ジオが怒鳴っちまって、怖がらせてごめんな。君らとの接し方が分からんだけで、良いやつなんだ。おじさんが保証するよ。事情は分からんが、ここは君らの遊び場なのだろう?今日のことは秘密にしてやるさ。けれど、君たちだけでここいらを遊ぶのはあんまり良くないな。今日はもう遅いから家まで送らせて貰うが、どうだ?またここで遊ぶってんなら、おじさん達も混ぜてくんねぇか?」
「ヘスース!……。いや、
──はあ。君の方を尊重するよ、確かに子供のことを無下にするのは私も嫌いだ。」
髭面の言動に慌てふためき、白髪は怒りの情を失う。どうしたものかと少しの硬直を置き、仕方がないと言うように
「怒鳴ってすまない。良ければ許してくれないか?改めて、私はジオという。彼はヘスース。君たちの名前も教えてくれないかい?」
イエヴァはそれを聞いて、クルトと顔を見合わせる。困った顔をしていたので、イエヴァはいいよと受け取ることにした。
「大丈夫だよジオ。いけない所で遊んでたのは
確かにあっけらかんとしたイエヴァは、初めて鉢合わせた際と変わらずにこやかにしているとクルトは気づく。「ほう、そうだったのかい。」とヘスースは相槌を打ち、彼女もにへへ、と笑い遊びの招待状へ返信を宛てる。
「ヘスースもこれからよろしくね。一緒に遊ぶおさそい嬉しいよ。にんずうが多ければ、楽しい遊びがうんとできるもの。ね!クルト。」
「え。う、うん。……確かにそうだね。」
「ようし、なら決まりだ。クルトもこれからよろしくな。」
柵越しに向けられた快活な声に、クルトは少し疑心暗鬼のままであったが、悪い人たちじゃないのかもとちょっとだけ気を許す事にした。
鉄柵の辺りにはほだやかな空気が流れ始めたが、「いけない、もうこんな時間だ。」と顔を見合わせ子供たちを家に送ることが
「あ!!! クルト、おしょんべん漏らしてる!!」
この場所にいる
やっばい、ほんとにおしっこ漏らしちゃった……!
あらら、およよ、とジオとヘスースは困った顔をして、第一発見者は声を殺してくふくふ笑っている。
改めて今の状態を自覚して、恥ずかしさが最高温度にまでたっする。
顔が真っ赤にふっとうして、耳をドクドクと血がまわるの感じ始めると、こらえきれなくなったイエヴァが大笑いしだす。
「あっはは。おしょんべん垂らしぃー!」
今すぐ穴を掘って死にたいよ……。
そして僕は今、お母さんのお説教を終えたとこ。いつものことだから、もう呆れてくれるかなと思ったけれど、いつものように「貴方って子はどうして約束通りの時間に帰ってこないの。」とお説教を受けた。帰れた時間は六時半をとっくに過ぎて七時ぎりぎりにまでなっていたし、今回は加えてズボンのこともすっごく詰められる。ジオとは家に帰る前でお別れしたから、秘密はまだバレてないけど、こればっかりは隠せない。どうにかやり過ごそうとお風呂場に直行した。結局バレて罪が重くなった。
女の子の前で怖くて漏らすなんて、一生思いだしたくない事なのに、少しでもケイ期短縮をはかるため、ホントも交えつつ酷い言い訳を並べたら「男の子なんだから外でちょちょっとなさいよ。」なんてごもっともな事言われた。それができてたらこんな恥かいてないよ……
当然、晩ごはんはとっくに済んでいる。お母さんがスープとチキンを温め直してくれた。お小言は長くて嫌だけど、終わった後はぐちぐち引きずらないし、お説教中とは人が変わったように優しく接してくれる。そういとこから、僕のことを心配して叱っているのだと感じられて、何だかちょっと嬉しいなと思う。──流石にザイアク感も持ってるよ。
白い床タイル張りのダイニングにはチキンとバターの匂いが立ち込めて、おじいちゃん犬のスンスがお気に入りの場所で寝息をかいている。
一人の晩ごはんは、ダイニングじゅうに食器のかちゃかちゃする音がよく響いた。
寝る前の準備を済ませて、ベッドに就いたのは夜の八時。僕にはちょっと大きすぎると思う一人部屋を、サイドランプの
サイドランプの温かいオレンジ色を見つめていると、ぼんやりバク然と、明日への不安がなかなか拭えない。
自転車置いてきちゃったな、明日取りに行かないと。明日も会うって約束したけど、ほんとに行って大丈夫かな。
フに落ちるような、自分を落ち着かせるそれっぽい考えも浮かばず、宿題を投げ出しにしたまんまの夏休みの様な気持ちは残る。
今の僕にはどうすることもできないと諦めて、灯を消した。
人など誰も寄りつかぬ
国境線のイエヴァ すけいぷ傲徒 @Glaseeru
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