第65話 粘る令嬢 エリーザ・ラバーナ

 店の者が三人を案内して、同時に採寸を始めようとしている。私は耳をふさぎ目を閉じる。あと少し我慢すればいいだけである。


 二感を遮断しているなのか、時間の経過が遅く感じる。すると、脇腹に感覚がある。


 どうしたのかと、目を開くとニコラが、つついている。見つめると俯いて、もじもじしている。私は屈み込む。


「ニコラ、ごめんね」


「ゆるしてあげる、お兄ちゃん」


「ありがとう、ニコラ」


 彼女は笑顔になり両手を広げている。私は彼女を抱きかかえる。その瞬間、しまったと思ってしまう自分が嫌になる。


 私は三人の顔を見ないように天井を見つめ、数を数え始め、なるべく会話が入ってこないように気を散らしている。


「お兄ちゃん、測っているよ! 見ないの?」


「お嬢様たちを見ると、怒られるかもしれないからね」


「そんなことないよ。みんなやさしいよ」


「……」


「ほら、ユリア様が見ているよ。お兄ちゃん、見てよ!」


 先程のこともあるので素直に従う。ユリアは仕切りの向こうから顔を覗かせている。その彼女の表情は冷笑しているようにしか見えない。ニコラが見ているので目をそらすことは出来ない。


 彼女は、なぜか私を見つめたままで、それに恐怖を感じている。いままで、そのようなことは無かったので足が震えている。


 ニコラが彼女に手を振っていると、表情を一変させて振り返している。私は解放され安堵する。しばらく、二人で待っていると採寸が終わった。


 私たちは外に出る。すると、アンが私以外の三人に挨拶をし、ニコラには手まで振って馬車に乗り込み帰って行く。


 私がニコラを馬に乗せようとすると、ユリアが近づいてくる。


「ニコラは、馬車に乗せるわ」


「わかりました」


「お兄ちゃん……」


 彼女は戸惑っている。ユリアが、わざわざ馬車に乗せるなんていうのは珍しいことである。


「ニコラ、良かったね。ユリア様の馬車に乗せてもらえるなんて」


「でもぉ……」


「乗せてもらうといいよ」


「……うん、わかった」


 彼女なりに何かを察しているようだ。私の態度を見れば、そうであろう。彼女たちが馬車に乗り込むと出発した。


 馬に揺られていると、眠くなってきたので顔を叩く。それを繰り返しているうちに、エリーザの別邸に着く。


 馬車から三人が降りてきて、エリーザがユリアに礼を告げている。ニコラも嬉しそうにしている。二人が馬車に乗り込むと出発する。


 私も後に続きエリーザの横を通過しようとすると呼び止められる。


「何でしょうか? エリーザ様」


「ちょっと話があるのだけど」


「私には任務がありますので」


「少しくらい良いでしょ! アンタがいても役に立たないわよ」


 私は衛兵に事情を告げ馬から降りる。


「お話とは何でしょうか?」


「ニコラに魔法を教えるのいつにするのよ!」


「それなら、先程教えていただきましたが?」


「あれは見せただけよ! 教えたことにはならないわ」


 私は、彼女とは関わりたくないと思い溜め息をつく。


「アンタ今、溜め息付いたでしょ!」


「そのようなことは、ありません。深呼吸をしました」


「かわらないでよ! 私を馬鹿にしているの?」


「そのようなことは……」


「それでいつなの?」


 私は、これで断りづらくなってしまう。何故、溜め息なんてついてしまったんだと後悔する。


「使用人としての仕事があるので、いつとは申し上げられません」


「まぁ、それもそうね。予定が空きそうなら、私に報告しに来なさい。アンタ、まさか逃げようとしてないわよね」


「……いえ」


「絶対よ! 私は律儀なのよ。それと今日のことのお礼を言っておくわっ」


 すると、彼女は屋敷に入っていった。今の彼女の発言は、お礼を言ったことになるのかと考える。私は釈然としないが疲れているので考えるのを止める。


 屋敷に着くとユリアから仕事をしなくてもいいと言われたので、部屋に戻りベットで横になっている。


 エリーザの処分が解けて明日から登校してくる。会いたくないと思うが明日は上級科との合同課外授業があるので、嫌でも顔を合わせないといけない。


 眠気が襲ってきた。今日は、どんな悪夢を見ても、一日の出来事と比べれば、うなされないだろう。四令嬢が出てこなければいう条件付きではある。ゆっくり目を閉じる。

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