第66話 合同課外授業 クリスティーナとのチーム編成を引き裂く令嬢 アン・ロマーナ

 合同課外授業があるので、私は朝から憂鬱である。それで、今は学院の裏手にある森に来ている。左側には上級科の生徒がいる。私は見ないようにしている。彼女らから一番離れた所に立っている。


 先生から説明が行われている。それを聞いていると、内容は森の中のある地点まで行き、そこの設置してある机の上の紙に署名して戻ってくるというものである。


 予め此所でも署名をする。それと照らし合わせるとのことだ。変身魔法を使って不正をしないようにする為だという。


 その道中には罠が仕掛けられており、注意しながら進むようにとのことだ。それは生命に危険を及ぼすものではない。


 班を三人編成で組まなくてはいけない。最低一人は科の違う者でなくてはいけないそうだ。この授業の目的は、私には上級科の力を見せつける為としか思えない。


 私は、ふと我に返る。私は誰と組めば良いんだろうと思う。他の生徒たちは各々組み始めている。私にはローレンスとクリスティーナがいる事に気づく。


 彼らたちに近づくと、科を問わず多くの生徒から声を掛けられている。しかし、生徒たちは直ぐに彼らから離れて行っている。


 私が声を掛けると、彼らの背後にはアンが立っている。その理由が理解できた。同時に、彼らから離れて立っていたことを後悔する。


「やぁ、アンドゥー。その剣はどうしたんだい?」


 これは、登校前にユリアから手渡された古びた剣である。その経緯は合同課外授業の内容が分からなかったことに起因している。


 ユリアから剣が必要といわれた。それで、私は学院から貸してもらえるのでは言った。すると、彼女は私を罵倒した。その理由は、メリーチ家が使用人の扱いが酷いという噂が立つと名声が傷付くとの事だった。


「ユリア様から貸していただいたんだ。それより君たちは、もう決まったのかい?」


「そうなのか、お優しいんだね。まだだよ。クリスティーナ、そうだよね」


「まだよ。だけどね……」


 二人とも振り返りアンを見つめている。彼女は無言の圧力をかけているようだ。


「アンドゥー、僕は他の人と組むことにするよ」


「そうしましょうか? 何人にも誘われていたし。ローレンスなら、きっと直ぐに見つかるわね」


「そうかもね。大勢に声をかけてもらったし」


 使用人である私が班を組むのが困難と思い、彼らは気を遣ってくれている。それを嬉しく思う一方、複雑な気持ちになる。


「じゃあ、これで決まりね。アン様も良いかしら?」


 生徒の関係になると、彼女はアンに敬語を使っている。初めて聞いたので、私は不自然さを覚える。


 アンが手招きして彼女の耳元で何かを言っている。私は嫌な予感しかない。それは容易に想像出来る。


「アン様が、ユリア様と組んだらどうかと仰っているわ? 本当に配慮が出来て優しい方なの」


「嫌で……組んでもらえないよ」


「そうなの? どうしたら良いのかしら?」


 すると、アンが彼女の服を引っ張り屈ませる。すると、彼女の耳元で何かを言っている。


「アンドゥー。アン様が、お話があるというので付いてきて欲しいそうなの。ここで言うのは躊躇ためらいがあるんだって。アンドゥーが良いのなら、ここで話すそうよ」


 最後の一言に、私は瞬時に危険を察知して了承する。私が彼女の後に続くと、人気のない所で止まった。


「アン様、お話とは何でしょうか?」


「昨日の事言うわよ!」


「昨日の事とは?」


「よく胸に手を当てて考えては如何かしら? バカなの?」


「……」


 この間、聞いた声の印象とかけ離れている。語気が非常に荒い。それに私は戸惑う。さらに、彼女は明らかに怒りに満ちた表情を浮かべている。その迫力に圧倒され後退りしそうになる。


「思い出したかしら?」


「……」


「いいわ、馬鹿に教えてあげるわ。昨日、貴方がニコラにしたことよ! クリスティーナに話してもいいの?」


「それは何でしょうか?」


「アナタ惚とぼけるつもりなの? ニコラを怒鳴りつけて泣かせた事よ!」


「怒鳴ってはいません」


「泣かせたってことは、そういうことよ!」


 私は、そうしたつもりはない。あの時、私は疲労困憊だった。客観的に見ていた彼女には、その様にに見えていたのかも知れないと思えてきた。


「申し訳ありません」


「素直に謝れることは良いことだわ」


「はぁ……お話は以上でしょうか?」


「それで相談なんだけど、言われたくないなら他の人と組んでもらえるかしら?」


 私は他の人という言葉に引っかかる。結局、彼女の狙いは私たちを引き離す事だと落胆する。彼女の発言は脅迫でしかない。


 しかし、彼女の先程の表情から本心であるとしか思えない。そこから導き出した結論は、只単に私のことが嫌いだということだ。


「わかりました」


「アナタが、物分かりのよい人で良かったわ」


 そう言うと、彼女は去って行く。私は彼女の姿を見ていることしか出来ない。私は左右に頭を振って気分を入れ替え戻る。

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