第63話 男を見せる少年と卑怯な騎士
「でもね、お兄ちゃん。でも、他のところは、あのお姉ちゃんが全部大きいから勝ってるんだよ」
ナニヲイッテイルンデスカと焦る。マチルダは今にも襲いかかってきそうな勢いである。そして、先程の出来事を思い出す。
アンはニコラの耳元で何かを囁いていた。それは、その事だったのだ。
私は素早くアンを見る。彼女は察知していたのか、もうすでに私は関係ないという感じで天井を見上げている。
「ニコラ。お嬢様たちの前で、そんなことを言ってはいけないよ!」
「そうなの?」
「そうなのっ!」
「わかったですっ」
そう言いつつも、納得していない様子だ。彼女は良かれと思い私に教えてくれたのに、そんなことを言わなければならないことに心が痛む。
私は再びアンを見るが、その姿勢を崩していない。彼女は、後ろにでも目がついているのだろうか。
私は恐る恐るユリアとエリーザを見る。彼女たちはゴミでも見るような眼差しを向けている。
彼女たちがニコラへの言葉が気に入らないのは理解できる。しかし、そのような眼差しを向けられる程、私は悪いことをしたのだろうか。
そのような態度とこれまでの疲れからか、涙がでそうになるが堪える。
ニコラが、ユリアとニコラの元へ向かっている。この時点で嫌な予感しかしない。ニコラは手に巻き尺を持っている。
ニコラが手で屈むようにエリーザに催促している。彼女は笑顔でこたえ、屈み両手を挙げている。
私は、この場にいてはいけないと察し店から出ようとする。
「あら、アンドゥー! 何処へ行くのかしら?」
「暑いので外で涼もうと思いまして」
「外の方が暑いと思うのだけど。まぁ、いいわ」
外に出ると安堵する。そのせいなのか、体の力が抜け倒れそうになったので壁にもたれかかる。
気のせいなのか、開放感からなのか、暑いはずなのに涼しく感じている。私は体に異常をきたしてしまっているようである。
しばらくすると、体に力が戻ってきた。私は両手で壁を押して立つ。
周りを見ると、各家の馬車が停まっている。すると、マチルダの警備隊長と目が合ったので逸らせる。
下を向いていると私に影がが伸びてくるのが見え、鎧をつけた足が見え、ゆっくりと顔をあげると奴がいた。
私は顔を見るのも嫌なので、背けると覗き込んできた。私は目を閉じる。早くこの場を立ち去って欲しいものだ。
「オイ! 使用人ごときが無視してんじゃねえぞ!!」
耳元で大声で叫ばれた。そのせいでキーンと耳鳴りがしている。まだ何か言っているようであるが、聞き取りづらい。
私はウンザリしていて、この姿勢を意地でも崩すつもりはない。まだ何か言っているが無視し続けている。
その態度が気に入らないのか、胸ぐらを掴まれ激しく揺さぶられいる。今日の私には、この程度どうって事はない。
「坊ちゃん」
ヨハンさんが、もの凄い形相で見ている。私は手で来なくても良いと合図する。
ヨハンさんなら、コイツ程度なら一捻りであろう。しかし、問題を起こして、ヨハンさんが何らかの処分を受けるなんて耐えられない。
私は、しょうがなく口を開く。
「決着は試合で決めませんか? それとも負けるのが怖くて、ここで怪我させて棄権させるつもりですか? 誇り高き騎士さん」
「なんだと!! このクソガキ、舐めやがって!」
コイツは拳を高く振り上げ下ろそうとしている。私も、これを甘んじて受け入れる気はさらさら無い。その時、扉の開く音がした。
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