第62話 爆弾発言をする天真爛漫なニコラとアンドゥーに殺気立つ四令嬢
ニコラはアンの元へ駆けよる。アンは痺れを切らせたのだろう店の者を呼び寄せている。すると、採寸を始めに行く。
ニコラは仕切りの幕をめくり、覗き込んでいる。採寸を終え出て来たアンは、それに気が付き店の者に何か言っている。店員が彼女に巻き尺を手渡す。
彼女は、ニコラの腕にそれを巻いている。ニコラが両手を挙げると、胸部と腰周りを測っている。彼女がアンにおねだりしたのだろう。
彼女たちを見ていると、アンがニコラに巻き尺を手渡す。私は、なぜかその光景に嫌な気がしている。ニコラは、彼女の足首にそれを巻き付けている。
アンは、それを右手を口に当てながら、笑いを堪えているようだ。私には決して見せることはない表情である。
マチルダは相変わらず特定のサイズを主張し、店の者を罵倒し続けている。彼女は、ユリアたちを全く気にしていないようだ。
彼女は、いったん入り込むと周囲が見えなくなる性格なのだろう。ユリアも、これには呆れ気味で、エリーザは完全にそうである。
これには、ニコラも気になったようで何か言おうとしている。なぜか、アンが慌てた様子で抱え上げる。すると、彼女はニコラに耳を向ける。
ニコラが何かを告げると、アンは彼女の耳に手をあて、何かを答えている。すると、彼女はニコラをゆっくり降ろす。ニコラが、巻き尺を持って両手を挙げている。
すると、彼女はわざわざしゃがみ込み、左腕を測りやすいよう少し挙げている。ニコラは嬉しそうに測っている。
ふと思う。私が女性なら、彼女たちに優しくしてもらえていたのかも知れないと。その考えをすぐに打ち消す。むしろ、陰湿にイジメ倒されたはずだ。私は激動な今日の出来事に、精神的に参っているのだ。
彼女は、さらにその姿勢から、膝をつき両手を水平に挙げてなさっている。ニコラは服の上から胸部を測ろうとして、彼女に腕をまわしているが届いていない。
巻き尺が床に落ちる。すると、アンはそれを取りあげ、胸にあてている。ニコラは片方を取り測り始めている。
話を聞いていると彼女は正確に測りたいのか、強く絞めているようだ。アンは、それに笑っている。
私は、その光景にナンダコレと思う。私は精神的に限界をむかえている。私のこれまでの苦難は何だったのだろう。
私は朦朧としながら彼女たちの話を聞いている。お次は、腰回りを測っていて、今度は手が回っているがサイズが分からないそうである。
すると、アンが両手を広げるとニコラが真似をする。そのニコラの右手の先から左手の先まで、アンが測っていらしている。ニコラがアンの耳元で囁いている。
すると、彼女は頷き採寸をやり直し始めている。どうやら、ニコラは正確に測って欲しいみたいだ。彼女は納得したのか頷く。そして、アンはニコラを抱きかかえる。
私は、そのやり取りに嫌気が差して顔を背ける。その先には、最も見たくない顔がいる。そう、ユリアだ。
彼女は冷静を装っているが、内心は煮えくりかえっている。その証拠に、彼女はニコラたちに目をやる。彼女は、このやり取りをずっと見ていたのだろう。
今日は何て日なんだ。もう失神寸前である。私は足を踏ん張る。エリーザは、アナタなにしてるのよという表情である。それは、この責任取りなさいと言わんばかりだ。
私は薄れゆく意識の中で、まだマチルダがいると思い直す。ニコラが、マチルダの元へ向かっている。私は瞬時に何かを察知する。
「ニコラ?!」
「なに? お兄ちゃん。このお姉ちゃん、アン様よりお胸が小さいのにサイズ?っていうのが一緒なんだって? すごいね」
彼女は、無邪気にマチルダを後ろ手で指差している。その指先に目をやると、マチルダの今にも私を亡き者にしようという視線が突き刺さる。
私は必死に呼吸を整えようとしているが、エリーザは笑いを堪えていて、ユリアもそのようである。
しかし、アンだけは今にも私をマチルダ同様、私を亡き者にしようという勢いである。私は今日一日のことを思い浮かべる。
どうやら彼女はニコラと私が共に過ごすことが、お気に召さないようである。私は、ニコラを抱きかかえようとする。
その刹那、ユリアとエリーザの殺気を感じる。二人も私を亡き者にしたいのだと悟る。
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