第16話 一か八か 仮面の男
私は、どのくらい時が経過のだろうかと思う。私は気を張っているので時間感覚ない。今は別邸に早く着くことだけを考えている。今のところ特段変った様子は見られない。
「アンドゥー深呼吸なさい。こっちまで息苦しくなるわ」
私は彼女を見る。いつも通りの彼女の表情である。でも、彼女も内心穏やかではないのかもしれないと思っている。
「私が怖がっているとでも思っているの? そんな顔してるわよ。そんなんだから、ヨハンに叩かれるのよ」
「すみません」
「いいから早く」
私は深く息を吸って吐く。彼女は、もう一度するよう言った。それを私は十回ほど繰り返す。私は緊張を保ったまま、良い感じに体の力が抜けてきている。
「良いんじゃない。表情もいくらか精悍になってきたわ。先程のままでは何も出来ずに終わってしまうわよ」
「ありがとうございます」
「あら素直じゃない。そんな貴方は嫌いじゃないわよ」
「はい!」
「期待はしてないけれど」
私は敢えて何も言い返さない。それは嫌な気は全くしていないからである。私はローレンスたちの事が気になってる。さすがに彼らも気づかないはずはない。私は彼らが不安を感じていると思う。
「彼らには申し訳ないことになったわね」
「ユリア様のせいでは決してありません」
「貴方、まだ緊張してるのかしら? ユリアよ」
「ごめん、ユリア」
「それで良いわ。もうすぐ森を抜けるはずよ。そうすれば、あっという間よ。アンドゥー」
そうなのかと思いつつ、私は彼女と会話を続けてる。彼女が今は警戒して慎重に進んでいるが、森を抜ければ平地で視界が開ける。それなので、奴らが隠れるような場所はないので、そこからは全力で馬車を走らせるはずである。彼女は説明してくれている。
しばらくすると馬車が止まる。どうしたのかと思い、私は窓から外を見てみると、護衛兵が馬から落ち倒れていた。直ぐさま、その事を彼女に伝える。
「外を調べてきます」
「頼もしいじゃない」
私は急いで馬車から出ると、護衛兵全員が地面に倒れている。私はローレンス達の馬車に駆け寄り中に入る。彼らも倒れている。私には最悪の結末が頭を過ぎる。私は彼の口元に手を翳すと呼吸はしている。クリスティーナも同様である。二人は気を失っているだけのようだ。
「あれおかしいな。君もこうなっている予定なんだけどな。どうなっているんだろう?」
私は振り返り馬車から出る。先程の者たちの様に黒装束の鼻から上に、銀色のマスクを装着した者が立っている。奴らとはマスクの色が違う。先程の奴らは黒だった。
「お前は誰だ? さっきの奴らの仲間か!」
「こんな事して名乗る愚か者がいると思うかい? 仲間? 仲間とは示し合わせた者を指すと思うがね。その意味では違うと言っておこう。こんな事を話すなんて特別だよ」
「何をしたんだ!」
「こちらの方が教えてもらいたいね。何故、君が立っていられるのかを」
「知るかよ!」
「口の利き方には気をつけるべきだよ。そろそろ、口がきけなくなるけどね」
「何を言ってる!」
「言葉そのままの意味だよ」
その時、馬車の扉が開きユリアが出て来る。
「あなたが首謀者かしら」
「あらら、貴女にも効くと思ったのですがね。成る程、そういうことか。君、彼女の近くにいて運がよかったね。名族メリーチ家の御令嬢は、魔法力も別格のようだ。その運も、あと僅かだけどね」
後ずさりしながら、私は彼女の元へ近く。すると、彼女が耳元で囁く。それを聞いて、私は本当だろうかと驚いている。私は彼女の言うとおり実行すると決意する。私はユリアと二人を守らなければならない。
「私の盾になるのよ。さぁ早くなさい」
「かしこまりました。お嬢様」
「可哀想だ。どうやら彼女の捨て駒でしかないようだ」
「どうかしら?」
「気に触ったのかい?」
彼女は詠唱を始めている。彼女は一度完全に習得した魔法なら無詠唱で放つことができる。彼女は奴を仕留める確率を上げたい。それで数十回試している魔法を使う時間を稼いで欲しいとのことである。
「させないよ」
奴も詠唱を始めている。そして、私は腹をくくり奴に突進していく。奴が魔法を放つ。私は全神経を集中させる。
「止めてやる!」
私が両手を突き出し、魔法を受け止めると消失する。そして、私は突進し続け、奴に飛びつき両腕で奴を捕まえることに成功する。
「ユリア」
「火龍、全てを焼き尽くせ!」
彼女の渾身の魔法は奴に直撃する。私は腹に衝撃を感じ膝から崩れ落ちる。私が立ち上がろうとするが顔面に蹴りを喰らう。
「一体何なんだ? なんとか耐えたが腕の自由が効かない」
「次で仕留めるわよ!」
「頭が混乱している。冷静さを欠いては戦えないね。これで今回は失礼するよ」
奴は走り出し、森の中に消えていく。
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