第17話 撃退と想い

 極度の緊張状態から、私は全身の力が抜けそうである。私は踏ん張り耐えている。


「もう大丈夫でしょうか?」


「警戒は怠らない事よ。アンドゥー」


「はい」


 私は周囲を見渡す。風で揺れている木々の音でさえ気になる。


「さあ」


 彼女は手を差し伸べる。私は彼女の手を握り立ち上がる。どの位の時間が経たっただろうか分からない。後方から大きな音がする。見てみると土煙が上がっている。


「敵です。馬に乗って逃げてください。時間を稼ぎます。ローレンスたちも一緒に」


「頼もしいわ。短時間で大分成長したわね。よく見てみなさい」


 彼女の言うとおり見てみるとヨハンさんである。彼を先頭に精鋭騎兵が百騎程こちらに向かってきている。彼が直ぐさま馬から降りる。


「ユリア様、遅れて申し訳ありません。あれは敵の陽動作戦でした」


 彼は事情を説明し始める。黒装束の集団は、あの後も一向に攻撃してくる姿勢をみせず、膠着状態が続いていた。彼がメリーチ家に要請してた援軍の精鋭騎兵が到着すると、精鋭騎兵隊長が彼に攻撃の合図を出した。それで、奴らに彼が弓を放つと騎兵隊も突撃した。


 その結果は呆気ないものだったという。奴らには実体がなかったという。だだの布きれだったそうである。術で操作されていたそうだ。


「ご苦労様でした。隊長は倒れてる兵を介抱して頂けるかしら?」


「畏まりました」


 ヨハンさんが私に近づいていてくる。


「よく約束を守ってくれた、坊ちゃん」


「無我夢中でした。僕は何もしていません。ユリア様のおかげです」


「坊ちゃんは立っている。それだけでも立派なことだ。誇りを持ちなさい」


「はい!」


 私は安心感から一気に体の力抜け、倒れそうになるが彼が支えてくれる。よく頑張ったと一言添えてくれる。


 私はローレンスたちのもとへ急ぐ。彼らは眼を覚ましていない。私は彼の頬を軽く叩き続ける。


「ローレンス、目を覚ましてくれ。ローレンス」


「うぅぅ、アンドゥー、僕は一体?」


 私は事情を詳しく話さないことにする。ただでさえ、混乱する状況だからである。彼が目覚めて心の底から嬉しい。私が謝罪すると逆に感謝される。そして、彼はクリスティーナのことを気にかけている。


 彼女は目を覚ましてくれない。彼女は馬車の壁に寄りかかったままである。彼らの様子をユリアが見に来てくれている。


「良かったわ。ローレンスさんは目覚めたようね。彼女は大丈夫かしら?」


 そして、隊長に対して彼女は早く隊列を整えるよう指示している。


 私はクリスティーナの肩を何度か揺すってみる。しかし、彼女に反応が見られない。そんな彼女を見守り続けている。そうしてるうちに目が開く。


 すると、彼女は私に抱きついてくる。突然のことで、私は少し戸惑う。彼女の腕の力は強い。それによって不安だったのが私に伝わってくる。


「私、どうしたの?」


「もう大丈夫だよ、クリスティーナ。無事で良かった。でも少し痛いかな」


「あら、ごめんなさい」


「構わないよ」


 私たちは手を取り喜びを分かち合っている。


「アンドゥー、急ぎなさい。もうすぐ出発よ」


 私が振り返ると、彼女は腕組みして表情が険しい。私は急いで準備を整える。そして、私たちは屋敷へと出発する。

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