第7話(下)カイホウ
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〝ジャンプアウトラプチャーを検出〟
〝ジャンプアウトラプチャーを検出〟
〝ジャンプアウトラプチャーを検出〟
コーションマークが天球を埋め尽くしてから、表示を消した。
警報を切ったところで、静止軌道付近に現れた大艦隊までは無くならない。
あとは、ガンマレイ・バースト・バスターの照射準備がいったい何秒で完了するか。
地球表面に散らばる鬼の反応から低軌道にある人類製宇宙艦四隻を見つけ出し、この星に攻撃対象があると認識して、瞬発式重力特異点生成装置にエネルギーを送るプロセス。
その何秒か。
発射される高エネルギーガンマ線は亜光速。距離四万キロメートルを切り裂くのに必要な時間を、わざわざセコンドで表すのは面倒。
モモは炭に還る。
アカオニはもう一度自分を蘇生させるだろうか……、そんなことをモモは考えた。
なんと意味の無い妄想だろう。蘇れば、いまのモモが感じたそれよりも強い失望が待っている。ガラス状個体で覆われた地球を前にしては、強力な圧縮知育の刷り込みがあったとしても、いよいよ立ち直れまい。
死んだままにしてくれればよかったと恨むのだろうな。
だからもしも、もう一度蘇生させてもらえるなら――赤ん坊からがいい。
記憶もいらない。
歩んできた二七年という歳月なんて、
名前もどうでもいい。
姿形が似るだけの、別の人間として新たな人生を歩むのだ。
その時はアカオニを母と、アオオニを父と呼ぼう。
二人から生きる術を学び、ガラス除去を生業とする。
鬼に奪われ価値を失った宝の星は、長い時をかけて貴さを取り戻す。
それはそれは気の遠くなるほどの時間が必要だろう。
でも地球にとっては、無窮の宇宙にとっては、取るに足らない何秒か。
劫と刹那の両方に生を刻みたい。
「大喜納モモ」
声……声だ!
「どうやら間に合ったようですね」
「
信号の方向を意識すれば、群れる滅却艦隊の間を進む、マザーシップ・インストレーションの姿が確認できた。滅却艦隊は、インストレーションには目もくれず停止している。
間に合ったのだ。
「ええ」
「そうか! 見ろ、アオオニの欺瞞装置は見事に時間を稼いでくれた。彼女に礼を言いたい! 君も考えを改めて感謝した方がいいな」
「大喜納モモ、いまは作戦に集中すべきです! ようやくこの時が来たのです、地球を取り戻す時が! 攻撃に際し、鬼の位置はこちらでも捜索しそちらに共有します」
ああ……ああ、その通りだ。ふたりの声をいま聞けないのは残念だが、迅速に作戦を進めなければならない。
すべての都市を攻略するには、一日や二日では足らない。マザーシップ・インストレーションと協力し的確に攻撃しても、さらに時間を要するだろう。
「頼みます、大喜納モモ! 地球が念願の新時代を迎えるために、あなたの尽力が必要なのです」
勿論だ。
ロケットを発射したまま勝利した気でいる鬼どもに、プラズマ爆撃を見舞うのだ。
予定通り旧都市圏の撃滅を優先する。
モモは思考を巡らせた。
四隻が動き出す。
高速排撃艦オオシバが先行し大気圏に突入、その後ろを航宙戦闘空母デカキギスが追従する。向かう先は旧アラビア半島の赤鬼勢力圏。オオシバは本来であれば対消滅魚雷を使用するが、反物質の生成機関がないため、アオオニによってプラズマ魚雷に変更されている。威力は十分だ。
デカキギスの小型機発進口が展開され、中からわらわらと全翼型無人鋭鋒機が飛び出す。鋭鋒機は戦闘機ではなく、それ自体が弾体として機能している。言うなれば大規模なビームカッターで、強固なエネルギーシールドを備えた鋭鋒機が目標に集団で突撃する。
地表に艦首を向けるオオシバが、コマのように水平に周遊しつつプラズマ魚雷を放っていく。
土塊にも似た全翼機の群れが、土煙をあげながらビル群に食らいつく。
戦術格闘艦スゴエンコウはインド洋へ向かわせた。洋上を航行していた原子力飛行船は、電磁パルスによって推進機関が機能不全に陥っており、高度一〇〇メートル程度まで降下して修復を試みているようだった。
スゴエンコウがアームを二本展開。広げられたアームの全長は艦を超える。先端のリーチャー部は自在に動く五指の手で、上甲板のウェポンラックから斬艦刀を取り出した。
猛スピードで敵艦に迫る。
原子力飛行船に乗る鬼たちからは、頭の上から鉄骨が降ってきたかのように見えただろう。自身の顛末を悟る前に、叩き折られた飛行船の一部になる。
モモは大気圏には入らず高度を上げ、高度五〇〇〇キロメートルからアフリカ大陸中央部の青鬼勢力圏へ絨毯爆撃を開始した。
無差別爆撃ではない。静止軌道付近からマザーシップ・インストレーションによるスキャンが行われ、鬼のものと思われる反応のある範囲に投射する。
密集度、地表か地中か、高規格シェルターか否かで火力も制御する。一門ずつ制御ができるので、プラズマによるガンマ線の影響を最小限に抑えられる。地球への影響をゼロにはできないが……数百万発の高火力核爆弾を惜しげもなく使う鬼を討つには、実弾よりも適当だった。
頭の回るほんの一握りの鬼から反撃があったようだ。モモの指示に忠実に駆け巡る三隻は気にも留めず、イタチの最後っ屁ごとまとめて潰していった。
「該当都市からの動体反応消滅しました。次の目標に移行ください」
「了解だ」
モモは引き金を引き続ける。
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むかしむかし。
鬼――眼下にうごめく愚かしい種族ではなく、空想上の――を相手にしたおとぎ話は、大別して二種類あったかと思う。
群れるだけで意気地の無い、叩けば泣き出すような鬼をこらしめるもの。
血肉をむさぼる残忍極まる鬼を、英雄たちが力を合わせ討ち果たすもの。
異形に当てはめる姿として『鬼』はだいぶ便利に使われたようだが、物語における『道具』としての役割には大して違いがない。
人間の尊厳を取り戻すためだ。
人々の生活を脅かした何らかの事象を克服するために『鬼』は使われた。
もしも。
モモも、アカオニも、アオオニも死んでしまった未来で。
旧人類の栄枯盛衰を、KIBIが物語ってくれるなら。
人間が生来直面する迷いや苦しみを知り、それらを打開すべき方法とその先にある明るい未来に、もしかしたら気付いてくれるだろうか。決して絶望せず、希望を見出してくれるだろうか。
圧縮知育によれば滅却艦隊は、KIBIと鬼類が作りだしたもの。
宇宙を漂うみじめな幽鬼であり、人類を抑圧するむごたらしい悪鬼でもある。
新人類が紆余曲折の末に宇宙へと手を伸ばせば、滅却艦隊と果てしない戦いをせねばならない。
それでも知的生命体は希望を持ち、エネルギーに満ち満ちた無限に広がる大宇宙へと、必ず旅立つ。
長く続いたこの戦いが、その助けになることを祈る。
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「おめでとうございます! ついに最後の一名の死亡を確認しました。これにて地表から鬼類は一掃されたでしょう」
KIBIの嬉しそうな声が頭に響く。
「あなたが飛び出した時にはどうしたものかと思いましたが、いまは作戦の完遂を喜びましょう」
反対しておきながら調子のいいことを言うものだ。
とはいえ、アオオニの欺瞞装置がなければKIBIの予想通りになっていたのは事実。その欺瞞装置も、アオオニの狙い通りに効果を発揮するかどうか不明だった。
そんな不確定要素をKIBIが選ぶはずがなかったのだ。
あるいはこのような事態のために、アカオニはモモを蘇生させたのだろうか。KIBIには頼れない状況で、人間の持つ意志決定能力を選択肢のひとつとして置いておきたかったのではないか。
どんな命題にも常に計算を前提とする人工知能とは違い、知識と経験に基づく即時的な判断を求めたのか。
アカオニのあの目は、直観への期待だったのだ。
そういうことなら、ぼくは役目を果たせただろうな。
「アカオニ、アオオニ。ふたりのおかげでこの復讐をやり遂げられた」
鬼征伐は約七日間に及んだ。
旧都市群の制圧に三日かけ、新都市群は全土に散らばっているため四日かかった。自動操縦の助けを借りて休憩を挟みつつ、とにかく地球に向けて爆撃を続けた。
管制ブロックには食料も水も用意されていたが、睡眠だけはどうにもならない。たっぷり一〇時間寝るのが人間として当然の権利であったのだが、まるで旧時代のサラリーマンのように短時間しか寝られなかった。五時間の眠りで倍の睡眠効果が期待できる圧縮睡眠は、二一世紀後半に開発され、ものの百年で誰も使わなくなった。
いくら身体は休めても、精神的な疲労はそうもいかない。
帰還後すぐにベッドに潜り込みたいところだが、先にすべきことがある。
「人類はほとんどその姿を消してしまって、元凶の鬼に至っては自滅も間近だった。この戦争には勝者も敗者もない! 地球は、知的生命体誕生以前の姿に戻されるだけなんだ。……それでも」
高度一万キロメートルでマザーシップ・インストレーションと合流する。
ダイジントウの後方にはオオシバ、スゴエンコウ、デカキギスが続く。オオシバは舞い上がった土に衝突し続けサポートユニットが傷だらけ、スゴエンコウは斬艦刀一本破断の上にアームが二本機能不全、デカキギスについては鋭鋒機のほとんどを消耗していた。
どの船も惑星制圧には向いていないのだから、消耗は仕方がない。
よくやってくれた。
アオオニの仕事っぷりに感謝せねば。
「それでも最善の状態で、地球を次代の人類に残せたと思う」
次の言葉は帰ってからでもよかった。面と向かって言うべき言葉で、何千光年と離れているわけではないのだから、通信を介するのは野暮というもの。
だが、いち早く伝えたかった。
「アカオニ、アオオニ、戦う機会と術を与えてくれたふたりに感謝したい。ありがとう」
もちろん帰ってからも言おう。
何度でも言おう。
「大喜納モモ」
「どうした?」
「プロトコルに従い、両名については拘束し、目下拘留中にあります」
なんだって?
「わけがわからない……な、なにを言っているKIBI」
「処置は当然です。アオオニ殿は私が課したプロトコルを逸脱しました。工作物とは違い、瑕疵のある生体部品は交換不可のため、廃棄が規定の手順です。致死量の薬剤製造ができないため、食用粘土が減り次第、デコンポーザーへの投棄処分を実行いたします」
いったいなにを。
「どちらにせよ、アオオニ殿にしていただく仕事はアカオニ殿のサポートぐらいでしたから、影響は無いでしょう。アカオニ殿については、アオオニ殿を捕らえる際に抵抗されたので、致し方なく同様に拘束させていただきました」
なにを言っているんだ!
「とは言いましても、アカオニ殿についても廃棄でよろしいかと考えています。何分激しい抵抗で、ドローンがいくつも破壊されてしまいましたから……アオオニ殿と似た瑕疵がある可能性があります。ご心配には及びません、彼女が担うアース・クリーナー・プログラムは、大喜納モモ、あなたが代行できます」
本気で言っているのか。
「大喜納モモ、何をしているのです?」
砲塔の照準が、マザーシップ・インストレーションの管制ブロックを向いていた。
「行動の意味が理解できません」
「ふたりを解放しろ」
「ご冗談を!」
「ふたりはこの先も必要だ!」
「思いも寄らぬ発言ですね。いったい何を根拠におっしゃるのです? 地球上から鬼類を払拭できたのですから、あとはこのマザーシップ・インストレーションと、汚染を除去するアース・クリーナー、そしてそれらを運用する私がいれば問題ありません。そんなことより、レーダー照射を中止してください。これ以上は冗談では済みませんよ!」
モモの指は引き金にかかっている。
「地球の汚染除去だけが必要な仕事ではない! 滅却艦隊も減らさねば!」
「おっしゃる意味がわかりませんが」
「KIBI、君がいれば滅却艦隊を無力化できる。ぼくが生きている内に解体できる艦隊は多くないだろうが、君やアカオニとアオオニの知恵を合わせれば、恒久的な滅却艦隊解体施設を建造できるはずだ」
「おっしゃる意味がわかりません。滅却艦隊への抵抗は無意味です」
「どうしてだ? 新人類も必ず宇宙を目指す、君なら理解できるだろう」
「そのようなことがあっては困ります」
「なにを言って――」
「大喜納モモ、私は言ったはずです。新人類は地球において栄華を極めると」
様子がおかしい。
KIBIがまくし立てる。
「人類がなぜ滅んだかおわかりになりませんか? それは宇宙に出たからです。すっかり宇宙へと飛び出してしまって、地球を自然に還したからです。あるひとつの惑星で誕生した知的生命体は、そこから大きく逸脱してはいけないのですよ。
惑星を飛び出せば、相応の脅威にさらされます。もちろん克服しようとするでしょうが、その力は他の惑星を侵食してしまいます。地球に限って言えば覇権主義とされてきた行いですが、宇宙においては同族に留まらず、大規模な争いに発展してしまいます」
ばかな。
「気体生命体との戦争で、人口が十分の一にまで減りましたね。仮に太陽系だけであれば、集中的な防衛戦で、人類は大きな損害なく撃退できたでしょう。たられば話だと思いますか? 幸い時間はありましたから、あらゆる要因の組み合わせを全てシミュレートできました。十分な結果に裏付けられた予測です。
このように宇宙に出る必要は知的生命体には本来無いのです。地上をしっかり支配していれば、鬼類に後れを取ることもなかったでしょう。これも十分にシミュレートしましたよ」
これは地球回帰主義者の妄言だ。
――太陽系外に人類の生活圏を求めるのは、地球を征した人類の性根に備わる征服欲に他ならず、その驕りはいずれ人類そのものを滅ぼす。故に征服欲とそれを叶える技術力はきっぱりと捨て、故郷にてつつましく生きるべきである――
一万二千年の時は、いくら文明を支える機械といえども長すぎた。やはりどこかでおかしくなっていたのだ。
KIBIは、たしかに人類の叡智と努力の結晶であった。ペルセウス腕やりゅうこつ腕に進出した大船団は、KIBIが成功に導いたと言って過言ではない。
だが一万年耐えられるかどうか、実際に確かめた人間はいない。いるはずがない。数え切れないほど繰り返したシミュレータだけが可能性を伝えている。
ディレマ発生の要因である人間との関わりが無く、十二回も記憶のアーカイブ処理をしているというのに、こうも正気を失ってしまうなんて。
このKIBIはどこかの段階で、かつての地球回帰主義と同等の愚考に陥った。
もはや正常に機能していない!
「聞くんだ! 君は宇宙機管制知能搭載文運統制支援コンピュータ、KIBIだ。君の本来の役目を思い出してくれ」
解決策はファクトリーリセット処理しかないぞ。
「我々の努力はついに結実します。人類は地球から一歩も出る必要はありません。いつまでも地球を愛し、地球に生き、地球に還ることを第一に考えるべきです!」
「いいか、答えてくれ。特別サブルーチンH九〇〇〇に従えば、この場における君の責任者はぼくだ。他に、ぼく以上に権限のある人間も人工知能もいないから。それはわかるな」
「ええ、そのようですね」
返答は数秒遅かった。
「ならば、アカオニとアオオニを解放するんだ。君は地球環境改善には不要と言ったが、手助けはいくらあってもいい。すぐにデコンポーザーへ送り込まなかったのは、活用の余地があると感じていたからだ、違うか」
「いいえ」と即答し「現在、食用粘土の貯蔵が五〇トンと貯蔵庫を圧迫しており、生産プラントの稼働を停止させています。再稼働を待ってから――おお! 土壌改良を行うアースクリーナーへの投下も良いかもしれません! そうしましょう」
「KIBI! ぼくが最高責任者と確認したばかりだ。いいか、君はあのふたりに瑕疵があると判断した。だがあのふたりは……」
アカオニ・インテリジェンス。
アオオニ・インテリジェンス。
『道具』であれと願った以前のぼくが誤りであったのは明白としても、だからといって人類の仇敵でもない。彼女たちは、彼女たちなりの考えで知的生命体を慮っていた。そのために手を尽くしていた。
慈しみか憐れみか、根底にある想いが何かはわからない。重要なのは、計算ずくの予測ではなく、希望を開く可能性に知識を注げるという点だ。
彼女たちはKIBIによって作られたかもしれない。
それでも、個の生命体である。
「あのふたりは、生き続けるべきだ。ぼくがきっと寿命を全うするのと同じように、彼女たちも老いさらばえるまで、たとえ短くとも、一生懸命に。瑕疵の内在も私が認める。不安というならば、そちらに戻り次第あのふたりと前途について面談する。もちろん君の同席を認めよう」
「いけません」
「お題目が欲しければこう言おう。人類を滅亡の淵に追いやった鬼との戦いの末、鬼の血を引く者にその命尽き果てるまで、地球回復の役務を課した、と。後世に残すには十分な記録のはずだ」
「いけません」
なぜそうまで頑ななんだ。
「KIBI、君の長い稼働時間の中で、ぼくたちの寿命はあまりにちっぽけだ。君のアーカイブに刻まれる長大な歴史の一幕に過ぎない。過ぎないが、ぼくたちは力を尽くして働き、人類再興の一助となる。我々は、協力者なんだ」
「いけません」
「KIBI! ぼくが責任者だ! ふたりを解放しろ!」
「ああ、いけません」
ぷつ。
そんな微少なノイズを感じだ。モモの脳とダイジントウをつなぐ、不可視のシュユ・ニードルは情報伝達の遅延がない。ダイジントウのシステムをダイレクトに感知し、手足の如く本能的に動かすための接続ケーブルだ。それなのに。
何かが――。
「いけません。いけませんいけませんいけません!」
叫び……ビープ音のような!
「あなたは地球を専有するおつもりですね!」
「は?」
くるったか!
「滅却艦隊への抵抗を認めるわけにはいきません! 他者の支配、外界への侵略を是認する個人に、地球の専有は認められません! 断固、拒否します!」
「KIBI!」
「地球は知的生命体に残された最後の惑星です! 公平性に欠くようなことがあってはならないのです。新たな知的生命体は、適切な進化を辿り、爛熟した社会で恒久的平和を享受すべきなのです!」
「やめろKIBI! これは――」
モモの手の内にあった推進機関の感覚が消えた。
そんな。
「地球は知的生命体にとって極楽の地になるんです! わざわざそれを壊してまで飛び出す理由が、いったいどこにあるというのでしょう! 同様に、他者がこの地に土足で踏み入るのも防がねばなりません! 腐らず犯されもしない極楽! あるべき地球の姿です!」
視界は維持できているが、どれだけ思考を巡らせても、ダイジントウからの返答が一切ない。推進機関も、攻撃システムも、何もかも。
後ろから何かが迫ってきた。
高速排撃艦オオシバ。
戦術格闘艦スゴエンコウ。
航宙戦闘空母デカキギス。
三隻がダイジントウを追い抜いて、反転。
背筋が凍る感触を、神経は何よりも優先して脳に届けた。
「太陽系に辿り着いたあなたにはご理解いただきたかった。愚かにも太陽系を脱した者でも、輝かしい故郷の姿を見れば賛同いただけるなど、なんと浅はかな考えだったんでしょうか!」
〝シュユ・ニードル、排出〟
〝
「地球はあなたのものではありません。私のものです」
視界が暗転し、意識が管制ブロックに戻された。
モモの意志ではない。
艦の制御を……!
「優先されるべきは、地球回帰プロトコルなんです!」
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