第13話 魔法少女リゼ

 新しい複合魔法コピーが完成したので、早速僕は全ページのコピーに挑戦した。

 ちなみにこの世界にも著作権みたいなものはあるが、前世のものほど厳格ではないらしい。

 この魔術書自体が帝城内にある魔法庁で作られており、念のため確認をとったところ問題ないとのことだった。

 リゼに母上の魔術書のページをめくれないように抑えてもらい、1ページずつコピー魔法を使っていく。

 全ページのコピーが終わったら、風魔法を使い糸で縫って、複製本の完成だ。


「できた!」

「やりましたね、お兄様!」

「うん、後は漢字にフリガナを書けば完成だね」


 でも、全部の漢字にフリガナをふるとなると、結構大変だな。

 とはいえ、魔法で解決できるものでもないし……。

 仕方ない、地道にこなすしかないか。


「じゃあ昼食を食べ終えたら始めるから、その間リゼは好きなことをして待っていてね」

「はい、大聖女リーゼロッテ様の絵本を読んでますね。でも、なにか手伝えることがあれば、言ってください」

「わかった。そのときはよろしくね、リゼ」

「はい!」


 昼食後、僕は一心不乱に全ての漢字にフリガナをふった。

 途中、午後のおやつ休憩をはさみ、その後ひたすら作業を続ける。

 そして、夕食前になった頃やっとのことでリゼ専用の魔術書が完成したのだ。


「終わったー……」


 僕は、疲れ果てて机に倒れこんだ。

 ずっとペンをにぎっていたので、指にペンダコができてしまい、右腕がしびれるように重い。

 そんな僕をリゼが心配そうにのぞき込んでいる。


「お兄様、大丈夫ですか?」

「うん、なんとかね……。そうだリゼ、ヒールをかけてもらえるかな」

「はい! いきますよ、お兄様! ヒール!」


 昨日までは右手を前に突き出していたリゼが、今日は右手を高々と上げてポーズをとっている。

 ああ、これって大聖女リーゼロッテ様のまねかな?

 絵本の中で大人のリーゼロッテ様は、長い杖を使っているけど、子供の頃は短いステッキのようなものを使っていたらしい。

 絵本の挿絵にその姿が描かれているのだが、リゼは同じポースでヒールをかけてくれたようだ。

 前世でも6歳くらいの女の子なら魔法少女のまねをして、ステッキを握っていた子も多かった気がする。

 リゼにも魔法のステッキが似合いそうだ。

 これって、土魔法で作れないかな?


「ありがとうリゼ、元気になったよ。ちょっと庭に出てくるね」


 リゼにお礼を言って、僕は庭に出た。

 そして、さっきまでリゼが読んでいた絵本を開いて、リーゼロッテ様のステッキを確認する。


「クラフト!」


 工作をする初級の土魔法クラフトで、絵本の挿絵そっくりのステッキが出来上がる。

 僕は、それを持って部屋に戻ると、リゼの前に差し出した。


「はい、リゼにプレゼント」


 魔法のステッキを見たリゼは、キラキラと瞳を輝かせている。


「これは、リーゼロッテ様のステッキです!」

「土魔法で作ってみたよ」

「ありがとうございます、お兄様!」


 リゼが右手にステッキを持って、高々と掲げている。

 絵本の中のリーゼロッテ様と同じポーズをして、はしゃいでいるようだ。

 一日の最後に良い仕事ができて自分でも満足だった。

 今日は頑張りすぎたので、あとは夕食を食べてしっかり休養しようと思う。


「お兄様! 早速、このステッキを使ってヒールをかけてみたいです!」

「へ? 今から? もう夕食前だし、明日にした方が良いと思うけど……」

「うう、ダメですか?」


 珍しくリゼが駄々をこねている。

 まあ、普通6歳の子供が欲しかったおもちゃを手に入れたら、すぐにでも使いたくなるよね。


「1回だけって、約束できるかな?」

「はい、約束します」


 僕は、リゼと約束の指切りをしてから再び庭に出た。

 そして、昨日と同じように100メートルダッシュを開始する。

 武力も2上がって23になったし、きっと精神的な疲労も軽減されているはずだ。


「ひい、はあ、ふう」


 あれー? おかしいな……。ぜんぜん楽になってない。

 どうやら武力21も23も誤差の範囲内らしく、折り返してからのラスト50メートルはマジで地獄だった。

 そして、昨日同様最後に足がもつれて、リゼの目の前でヘッドスライディングをかます。


「お兄様、大丈夫ですか? 今、治しますね、ヒール!」


 できたてホヤホヤのステッキを高々と掲げて、リゼがリーゼロッテ様のキメポーズをまねている。

 まるで前世のテレビアニメに出てきた魔法少女のようだ。

 あとは、魔法少女用の衣装が揃えば完璧だな。

 その後、夕食を終えてリゼと一緒に風呂へ入り、僕の部屋へ移動した。




☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆




 僕の部屋でリゼにドライヤー魔法をかけて、髪が乾けばあとは寝るだけだ。

 リゼを隣の部屋に移動させて寝かせようとしたら、当然のように僕のベッドに入ろうとしている。


「リゼは自分のベッドで寝ないの?」

「夜は、やっぱり独りだと怖いです。一緒に寝てもいいですか?」


 リゼが不安げな表情で僕を見つめている。

 しっかりしているように見えても、まだ6歳だもんな。


「うん、リゼがそうしたいなら僕は構わないよ」

「ありがとうございます、お兄様。これからは、寝るときずっと一緒がいいです」

「そうだね、僕もリゼとずっと一緒がいいかな」


 二人してベッドに入ると、リゼは僕に抱き着いてきて、すぐに寝息をたて始める。

 僕も最後のダッシュの影響か、すごい眠気に襲われて、あっという間に深い眠りに落ちていった。

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