第14話 気分上々
リゼ専用の魔術書が完成してからは、ヒール以外に使える光魔法ができたので、ひたすらダッシュを繰り返す地獄からは解放された。
僕たちの午前中は、魔術書を読みながら魔法を発動できるようにする訓練が中心だ。
リゼは、わからないことがあれば僕に聞いてくるので、そのときは一緒になって試行錯誤しながら魔法を習得している。
僕もわからないことがあれば、師匠のところへ質問に行ったりして解決させているのだ。
午後は、なるべく体を動かすためにダッシュや持久走、水泳を中心にした。
リゼは現在武力15なので、走るのは苦手だ。
そこで、リゼ専用プールを土魔法で作って、浮き輪を使いバタ足で泳いでいる。
「お兄様、上手に泳げるようになりました!」
今日も元気一杯のリゼが、得意気にしている。
「すごいねリゼ、ちゃんと前に進むようになったね」
「はい! それにしてもこの屋根は良いですね、日に焼けませんし
黄色に白の水玉模様のワンピースを着たリゼが、上を見ながら感心している。
帝都の4月は暑いくらいなので、庭に土魔法で屋根を作り紫外線を防いだ。
プールは、リゼの足がつくように調整して水を入れてある。
「疲れたらプールから出て休憩してね」
「はい、大丈夫ですよお兄様」
「しかし、今日は暑いね。走るのも飽きたし、僕もプールに入ろうかな」
「そうしましょう、お兄様。一緒に泳ぎたいです」
それから僕は、水着に着替えてリゼと一緒に泳いだのだが、物足りなさを感じた。
なにかもっと変化が欲しいな……。
前世のプールで楽しかった記憶があるのは、流れるプールやウォータースライダーあたりか。
土魔法と水魔法と風魔法の複合魔法でいけるかな?
「リゼ、一度水からあがってもらえるかな? プールを作り直したいのだけど」
「はい、今度は何を作るのですか?」
リゼが目をキラキラとさせている。
「えーとね、流れるプールを作ろうと思うのだけど」
「流れるプール?」
「うん、プールがまるで川のように流れている感じかな」
「それはすごいですね、楽しみです!」
僕は、リゼ専用プールを複合魔法で埋め立てて、庭全体を蛇行しながら周回するプールを作った。
そして、水魔法で水を一気に入れて、風魔法でプールに流れを作る。
「よし、浮き輪をつけて入ってみようか」
「はい、お兄様。でも最初は怖いので、手をつないでもらえますか?」
「いいよ、おいでリゼ」
僕は、リゼと手をつないで流れるプールに入った。
「すごいです、お兄様! 泳いでいないのに勝手に進みます!」
「でしょ、リゼのやりたいように好きにしていいからね」
「はい! あはは、すごく速く泳げます!」
いつも澄ました顔で光魔法の魔術書を読んでいるリゼが、こうやってはしゃぐ姿を見ると、6歳の少女らしくて安心する。
そしてリゼが何周かする間、僕は見守りながら水の中を歩いていたのだが、やっぱりなにか物足りなさを感じてしまう。
この世界だからこその楽しみ方がないだろうか……。
せっかく魔法が使えるのだから、土魔法と火魔法で船を作って、風魔法を強めにして急流川下りみたいなのはどうかな。
まあ、プール自体は平坦なので下ってはいないけど、雰囲気は出せそうな気がする。
「リゼ、土魔法と火魔法で船を作るから乗ってみない?」
「乗ってみたいです!」
リゼが両手をあげて喜んでいる。
僕は、サクッと土魔法と火魔法で船を作り、早速乗ってみた。
船は二人乗りで、前と後ろに一人ずつ乗る小さなものだ。
「リゼもおいで」
僕は、リゼの手を取り船に引き上げた。
「船に乗るなんて初めてでドキドキしますね」
「揺れて船から落ちると危ないから、座ってこのハンドルをしっかり握っていてね」
「はい! でも落ちたら怖いので、後ろから支えて欲しいです」
「わかった」
僕は座ると、リゼを後ろから抱きしめた。
「じゃあ、いくよ」
「はい、お兄様」
僕は風魔法を使って、プールの流れを速くした。
「うわー、速い速い! 気持ちが良いですね、お兄様」
「うん、良い感じだね」
直線ではスピードに乗って、良い滑り出しだ。
だが、カーブで問題が発生した。
曲がり切れずに突っ込んでしまい、カーブのたびに船が止まってしまうのだ。
「なんか、あまり楽しくないですね……」
「そうだね、こんなはずじゃなかったのだけど……」
楽しみにしていたリゼの期待を、裏切ってしまった。
カーブで止まらないように、出来ればいいのだけど……。
水の流れに任せてダメなら、いっそ船自体を操縦してみようかな。
僕は、風魔法を解除してプールの流れを止めた。
船の川下りは、失敗に終わったので、モーターボートに変更してみようと思う。
「リゼ、やり方を変えてもう一度いくよ」
「やり方?」
「うん、最初のは流れに任せていたけど失敗だったから、次は船自体を風魔法で操ってみるね」
「なるほど、上手くいくといいですね」
「そうだね、じゃあいくよー! しっかりつかまっていてね」
「はい!」
僕は、風魔法で船自体を押して動かした。
そしてカーブにさしかかると、風魔法で船の方向を変えて、勢いそのままに進んだ。
「すごい、すごいです、お兄様! カーブでもぶつかりませんね!」
「成功だね! よーし、このまま一周するよ!」
「きゃー、すごいすごい!」
カーブのたびにリゼが大喜びしている。
良かった、気に入ってもらえたみたいで。
その後、リゼが満足するまで周回を重ねて遊んだ。
毎日魔法の勉強ばかりだと息が詰まるので、たまにこういう遊びで気分転換もありかなと思った。
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