第12話 リゼの想い

 窓の外から鳥のさえずりが聞こえてくる。

 もう朝のようだけど、昨日のダッシュの影響かまぶたが重い。

 こんなときは、朝食が届くまで二度寝をするのが極上なのだが、なにかが僕のほほに触れている。

 離れてはまた触れて、とても柔らかいもののようだけど……。


「昨日は、ありがとうございました。お兄様の誓いの言葉とても嬉しかったです」


 そしてまた僕の頬に、柔らかい何かが触れている。

 これって……もしかしてリゼの唇なのでは?


「私も、なにがあってもお兄様の味方です」


 ああ、これはとても嬉しいな。

 今の僕が、一番聞きたい言葉かもしれない。

 そして、再びリゼの唇がぼくの頬をとらえる。

 とても歓迎すべき状況なのだけど、僕はいつ起きればいいのだろうか?

 目を開けるタイミングを完全に逃してしまった……。

 すると、リゼが僕から離れる際に、長く美しい銀髪が僕の鼻をくすぐる。


「クシュン」


 思わずくしゃみが出てしまい、リゼとばっちり目が合った。


「あっ」

「おおお、お兄様!」


 リゼがびっくりして僕を見ている。


「やあ、おはようリゼ」

「起きていたのですか?」

「あー、うん、少し前に……」

「どうして声をかけてくれなかったのですか?」

「いやー、なんか声をかけるタイミングを逃してしまって、ごめんね」

「うああ、どのあたりから聞いてました?」


 リゼが顔を真っ赤にして、涙目で聞いてくる。


「えーと、『昨日はありがとうございました』あたりからかな」

「ほとんど全部じゃないですか! うああ恥ずかしいです」


 リゼが両手で顔を隠して足をジタバタさせてる。


「でもね、僕はとても嬉しいよ、リゼ」

「ふえ」

「ずっと僕の味方なんだよね?」

「はい、お兄様が私の味方であるように、私もお兄様の味方です」

「ありがとう、リゼ」

「こちらこそ、お兄様」


 リゼが僕の胸に飛び込んできたので、僕はリゼをぎゅっと抱きしめた。

 しばらくすると玄関の方からベルが鳴る、朝食が届いたようだ。


「朝食みたいだね」

「そのようですね、お兄様」


 僕が抱擁をとくと、リゼが残念そうに笑った。




☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆




 食堂に移動して朝食を食べ終えると、今日の予定について話し合う。


「リゼは、光魔法について各ランクごとに全種類の魔法を知っているかな?」

「いいえ、ヒールしかわかりません」

「ふむ、なら午前は光魔法の種類について勉強しようか」


 僕は、自分の部屋にある母上の形見をリゼに見せた。


「お兄様、これは?」

「これは、光魔法の魔術書だよ。僕の母上の形見でね、わかりづらい部分に手書きで説明が書いてあって、初心者にもすごく使いやすいんだ」


 僕は、本を開いて中をリゼに見せた。


「お母様の字、とてもきれいですね。でも、私には読めない漢字が多いです」

「仕方ないよ、リゼはまだ6歳だもんね」

「はい……」

「じゃあ僕が漢字にふりがなを振ってあげるよ」

「でも、大切なお母様の形見をよろしいのですか?」


 リゼの言うこともわかる。

 そのままの状態を維持する方が、形見としては良いだろう。

 でも、リゼが光魔法を極めるためには、絶対にこの本が必要だ。

 なにか良い方法はないだろうか……。

 同じ魔術書を用意して、母上の追記した文章のみ全部書き写すにしても、数日かかるかもしれない。

 他になにか方法はないだろうか……。


「じゃあ、コピーをしてみようか」

「コピーですか?」

「うん、遠い異国の魔道具で、1ページそっくりそのまま同じものを作ることができるんだ」

「すごいですね!」

「でしょ、それを複合魔法で再現できないかと思ってね。じゃあ、いくよ、コピー!」


 まず試しに最初のページをコピーしようとしたのだけど、ダメだった。

 コピー機から印刷された紙が出てくるイメージは、できていたのだけど。


「ダメかー」

「残念でしたね」

「やっぱり、等価交換なのかな」

「等価交換?」

「複合魔法でなにかを作り出すにしても、原材料を揃える必要があるってこと」


 リゼの頭の上に?マークがたくさん浮かんでいるように見える。


「最初のドライヤーは、風魔法を火魔法で温める単純なものだった。次のシャワーも、水魔法を火魔法で温めて、風魔法で飛ばす簡単なものだったんだ」

「なるほど」

「でもコピーは、紙と黒インクが必要なのだと思う。さらに本にするなら糸も必要かな」

「全部揃えた状態なら、成功するかもしれませんね」

「うん。ちょっと門番の連絡係に材料の手配をしてくるよ」


 そう言い残して僕は、外にいる連絡係に指示を出した。

 しばらくすると、紙と黒インクと糸が届けられる。


「よし、今度こそ成功させるぞ」

「頑張ってください、お兄様」


 リゼの応援をバックに、僕は再びコピー魔法を試みた。

 右手を前に出して、母上の魔術書の1ページ目がコピー機から出てくるのを想像した。

 すると黒インクが宙を舞い、紙に付着していく、最後に風魔法で乾燥させれば完成だ。


「できた!」

「やりましたね、お兄様」


 リゼが両手を高く上げて万歳しているので、そこに僕の両手も合わせてハイタッチをした。


「後は、きちんと同じ文章になっているか確認だね」

「そうですね」


 僕はリゼと肩を並べて、間違いがないかどうか探した。

 すると、書いてある文字の形も大きさも同一で完璧である。

 ここに新しい複合魔法コピーが完成した。

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