第4話 初めての魔法

 僕の味方が父上しかいないと判明した以上、急いで能力を上げたほうがよいと思う。

 父上に万が一の不測の事態が起こったとき、僕は孤立してしまうから。

 武力20で剣術を習おうにも、7歳の自分には剣がすごく重かった。

 なので、魔法をどんどん使えるようにしていこうと思う。

 ところが、魔術書をみて呪文を唱えたところで、魔法は発動しなかった。

 いきなり挫折して途方に暮れるが、ここは先生に教えてもらうべきと、執務室にいる父上のところへ相談にいく。

 こういうときのために第3皇子を選択したのだから、使えるものは積極的に使っていこうと思う。


「父上! 魔法を習いたいので、帝国で一番の魔術師を紹介してください」

「それはいいが、倒れた後だし体調の方は大丈夫か?」


 父上が心配そうに僕を見ている。


「はい、もう大丈夫です!」

「そうか、ならばよい。しかし、魔法は適性がないと使えないが……まあよいか、気晴らしぐらいにはなるだろう」

「父上、何事もやってみなければ、わかりません。挑戦あるのみです!」

「そうだな、お前の言うとおりだ。ところで、雰囲気が変わったような気がするな。前は、消極的な感じでおとなしい子だったのに」


 ヤバッ! 父上には僕のキャラがいきなり変わったように感じたようだ。


「えっと、天国にいる母上に安心してもらえるよう、立派な皇子になろうと決心しました」

「おお、それは素晴らしい心がけだな。頑張るんだぞ、クリストハルトよ」


 父上は涙ぐみながら、ぎゅっと僕を抱きしめてくれた。

 父上が公務に戻り、しばらくすると一人の男が現れる。


「お待たせいたしました、クリストハルト殿下。魔術師団長を務めております、リートベルク侯爵家当主アレクシス・フォン・リートベルクにございます」


 父上と同年代に見える、金髪碧眼の知的なイケメンが、片膝をついて丁寧に自己紹介をしてくれた。


「よろしくお願いします。リートベルク侯爵」


 僕はペコリと頭を下げて侯爵に挨拶をした。


「おお、なんと礼儀正しい。殿下は何歳になりましたかな?」

「7歳です」

「ほう、まだ7歳なのにこの落ち着き。将来が楽しみですな」


 侯爵が僕を見て微笑んでいる。


「さて殿下、ここでは危ないので、城の外にある魔術訓練場へ移動しましょう」

「はい」


 僕は、侯爵の後を追いかけた。




☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆




 城の外に出てしばらく歩くと、建設途中の建物がある。


「侯爵、これは何を作っているのですか?」

「これは、新しい迎賓館です。もうほぼ完成しておりまして、あちらにある建物が今まで使っていた迎賓館になります」


 侯爵が指さす方向を見ると、古いけど立派な建物があった。


「新館が完成したら、旧館はどうなるのですか?」

「解体される予定になっています」

「なんだか勿体ないですね」

「そうですね。しかし、他国の要人を接待しますので致し方ないかと」


 侯爵は、少し困ったように微笑している。

 そんな話をしていたら、魔術訓練場に到着した。


「殿下、先ほど訓練が終わった後なので、自由に使えますよ」


 侯爵がイケメンスマイルで僕に告げた。

 なんというか、すごい破壊力がある。

 今まで何人の女性をとりこにしてきたのだろうか。

 てか、訓練が終わったばかりの侯爵を、僕は呼びつけてしまったらしい。

 なんか申し訳ない気分だ。


「疲れているでしょうに、なんかすいません」

「いえいえ、私は元気一杯なので大丈夫ですよ。さて、何を教えればよろしいので?」


 魔法を教わる前に、侯爵のステータスを確認しておくか。


【アレクシス・フォン・リートベルク】

 ファルケ帝国 侯爵(魔術師団長) 30歳 男


 知力 98/98

 武力 72/72

 魅力 91/91


 剣術 B/B

 槍術 D/C

 弓術 D/C

 馬術 B/B


 火魔法 S/S

 土魔法 A/A


 話術 S/S

 算術 S/S

 芸術 S/S

 料理 D/C


 全能力値がカンストしていて、知力が高く火と土の二属性魔法を使いこなす。

 さすが魔術師団長といったところか。

 各技能適性も高く、ほぼ上限までレベルが上がっている。

 おそらく器用で真面目な人なのだろう。


「侯爵、火魔法の呪文を唱えたのですが、魔法が発動しないのです」

「ふむ、魔法は適性がないと発動しませんが、それはさておき、魔力を体内に循環させる訓練から始めましょうか」

「はい!」

「胸のあたりに魔力を感じて、それを指先や、つま先に送り込むように体内で循環させます」

「こう、かな?」

「すると体がポカポカとしてきませんか?」


 何となくだけど、体がジワリと温かい感じがする。

 これが魔力循環というやつなのだろうか。


「はい、体が温かくなってきました」

「良い感じです殿下。では、呪文を唱えてみてください」


 僕は、うなずくと意識を集中させ、右手を前に出した。


「燃え盛る炎よ発現せよ、ファイア!」


 しかし気合もむなしく、僕の右手から火魔法が発現することはなく、辺りは静寂に包まれている。

 ちょっと魔法を舐めていたかもしれない。

 でも適性はあるのだ、しかも素質はS!

 最初は苦労しても、コツさえつかめればやれるはずだ。


「ふむ、これでダメとなると後はイメージですかな」

「イメージ?」

「はい、魔法で一番大事なのは、その魔法が発現している場面を想像することなのです」

「なるほど。では侯爵、ファイアの見本をお願いします」

「かしこまりました。では、いきますよ」


 侯爵が右腕のてのひらを上に向けると、突然火の玉が一つ出てきた。

 今、呪文を唱えてなかったような?


「侯爵、呪文が聞こえなかったようですが」

「はい。私は無詠唱魔法が使えますので、呪文は必要ないのです」


 おお! 無詠唱はカッコいいな。僕もやってみたい!

 僕は、右腕の掌を上に向けて、火の玉が浮いているのを想像してみた。

 すると、侯爵が見せてくれたのと同じように、僕の掌の上には、火の玉がふよふよと浮いている。


「できた! 初めて魔法が使えました!」

「おお、殿下おめでとうございます」

「ありがとうございます、侯爵のおかげです」

「いえいえ、というか初めての魔法が無詠唱とは、殿下は魔法の天才かもしれませんな」


 侯爵に褒められて、僕はすごく嬉しかった。

 前世の記憶が戻ってからは、皇后様や兄上たちに罵倒される日々で、毎日が大変なのだ。

 一人でも多くの味方が欲しい。


「侯爵、火魔法の適性を上げるには、どうしたらよいのでしょうか?」

「魔法の適性が上昇する条件は、そのランクに属する全種類の魔法を発現させることが最低限必要です」

「なるほど」

「さらには、一定の経験を積むことも必要とされます」

「一定の経験?」

「はい、わかりやすく言えば、たくさん火魔法を使えばよいのです」

「そういうことですか。それを繰り返していけば、どんどん火魔法の適性が上がっていくのですね」

「はい、どこかで壁にぶつかるかもしればせんが、そういうことです」

「侯爵、今日はありがとうございました」


 僕は、侯爵に感謝を伝えるべく頭を下げた。


「いえいえ、どういたしまして。しかし殿下、皇族というもの配下に対して頭を下げるというのは、あまりよろしくないかと」

「では、一つ侯爵にお願いがあります」

「はい、なんなりと」


 侯爵が微笑んで僕を見ている。


「僕の師匠になってください」

「師匠、ですか?」

「はい! 弟子が師匠に頭を下げるのは、当たり前ですよね?」


 しばらく考えてから侯爵は、ふふっと笑った。


「わかりました。微力ながら、師匠を務めさせていただきます」


 了承してくれた侯爵が、僕にペコリと頭を下げた。

 あくまで第三皇子と侯爵としての関係を崩さずに。

 でも僕が望んだのは、こんな関係じゃない。


「よろしくお願いします。しかし、師匠というもの弟子に対して頭を下げるというのは、あまりよろしくないかと」


 僕が微笑みながら苦言を呈すると、侯爵は一瞬キョトンとした後、表情を緩めて笑い出した。


「あはは、これは一本取られましたな。承知しました、二人だけのときは師匠として厳しく対応することにします」

「ええっ、厳しくですか? お手柔らかにお願いします……」


 侯爵は、声を大にして笑っている。

 つられて僕もアハハと声に出して笑う。

 なんか久しぶりに心からリラックスできた一日だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る