第2章 幼少期編

第3話 そして異世界へ

「ラウラ! 目を開けてくれ、ラウラ!」


 ベッドで眠る母上に必死に声をかける父上。

 母上は、少し前に体調を崩してからずっと眠り続けている。

 長く美しかった黒髪も、今はその輝きを失ってしまった。


「クリストハルト! 母に声をかけてあげなさい」

「母上! 起きてください、母上!」


 父上に言われて僕は、全力で母上に呼びかけた。

 でも、僕の声は母上に全く届いていないようで、ぴくりとも動かない。


「皇帝陛下、残念ながらもうお声は届かないかと……」


 白衣を着た医師が、母上の脈をとりながら残念そうに父上に告げた。

 なんてことだ……。

 母上が亡くなるなんて……。

 放心状態になった僕の心に、なにか遠い昔の記憶みたいなものが流れ込んでくる。

 なんだこれ?

 どんどんその量が増えていって、頭が割れるように痛い。

 そして目がぐるぐると回ると、目の前が真っ暗になり僕は意識を手放した。




☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆




 どのくらい眠っていたのだろうか? 目覚めると、白衣を着た男と目が合った。


「おお、クリストハルト殿下が目覚められた! 急いで皇帝陛下にお伝えするのだ」

「はい!」


 白衣の男の指示にメイドが慌てて従う。

 足早に部屋を出て行った。

 見覚えのある天井……、ここは僕の部屋か?

 しばらくしてから、父上が息を切らして部屋に入ってきた。

 公務で忙しいだろうに、僕の安否を心配してくれてるのが伝わってくる。

 愛されているんだな、僕。


「クリストハルト!」


 父上が、僕の名前を叫びながら抱き着いてきた。

 でも、思いのほか力が強くて、イテテテ折れる折れる!


「痛いです父上。体が真っ二つになりそうです」


 僕が悲鳴をあげると、父上は慌てて僕から離れた。


「すまん、すまん。クリストハルトの意識が戻ったと聞いて、嬉しくてついな」


 前世の記憶を取り戻した僕は、さっそく『可能性は無限大』のチート能力を使って、父上のステータスを確認した。


【ボニファティウス・ブレイズ・ファルケ】

 ファルケ帝国 皇帝 30歳 男


 知力 72/72

 武力 98/98

 魅力 91/91


 剣術 S/S

 槍術 A/A

 弓術 F/C

 馬術 A/A


 火魔法 A/A


 話術 B/B

 算術 B/B

 芸術 C/C

 料理 G/F


 すごいな、全能力値がカンストしてるぞ。

 各技能適性も高く、上限に達しているものが多い。

 幼少期から英才教育を受け、本人もかなり努力したのだと思う。

 しかし、武力98の怪力で僕は力一杯の抱擁を受けたのか。

 危うく死ぬところでしたよ父上……。


「いえ、僕も父上に会えて嬉しいです」


 すると、再び父上が僕を抱きしめてくれた。

 今度は優しく包まれるような感じだ。


「父上、母上は本当に亡くなってしまったのですか?」


 抱擁をといた父上が、悲痛な顔で僕を見つめている。


「ああ、残念だがラウラはもういない。おまえはラウラの分まで長生きするんだぞ。決してわしを一人にしないでくれ」

「はい、父上もお体大切にしてください」


 父上は、嬉しそうに僕の頭をなでた後、公務に戻っていく。

 そして数日後、しめやかに母上の葬儀が執り行われた。




☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆




 母上の葬儀から数日経過したが、僕の気持ちは沈んだままで、立ち直れない日が続いている。

 でも、父上に心配かけるわけにもいかないので、僕は強く生きていかなきゃいけないのだ。

 前世の記憶も戻ったし、チート能力『可能性は無限大』を使いこなせるようにしたい。

 まずは、現状確認からだよな。

 僕は心の中でステータスと唱えて、自分の能力値を確認した。


【クリストハルト・ブレイズ・ファルケ】

 ファルケ帝国 第3皇子 7歳 男


 知力 70/100 (40から70へ上昇)

 武力 20/80

 魅力 99/99


 剣術 G/S

 槍術 G/S

 弓術 G/S

 馬術 G/S


 火魔法 G/S

 水魔法 G/S

 風魔法 G/S

 土魔法 G/S

 光魔法 G/S

 闇魔法 G/S


 話術 D/S

 算術 D/S

 芸術 F/S

 料理 G/S


 剣術や魔法といった攻撃系技能は、全部最低値のGだった。

 まあ、全ての魔法に適性があり素質もSって、とんでもないチートなんだけど、コツコツ上げていかないとな。

 生活系技能は、話術と算術がDまで成長していたようで、ちょっと嬉しい。

 しかし、知力が一気に30も上昇してるのには驚いた。

 おそらく前世の記憶を取り戻したことによるものか。

 てか、知力の上限が最高値の100ってスゴイな!

 もしかして僕は、賢者のたまごなのでは?

 武力20は低すぎるけど、まだ7歳だしこんなものか?

 魅力99って、いきなりカンストしてる!

 わからないことが多いけど、もう少し他人の能力値が見れれば、判明することもあるんじゃないかな。

 ということで、帝城の中を調査してみることにする。

 自分の部屋を出てしばらくすると、兄上たちに遭遇した。


「レオンにい様、エーベ兄様、こんにちは」


 僕は、努めて明るくあいさつした。


「あ? 気安く俺たちに話しかけるなよ。卑しい平民の血が半分混じっているくせに」


 長兄であるレオン兄様からヒドイ言われようである。

 平民の血とは、僕の母上が平民だったからだ。


「そうだそうだ! あっちに行けよ」


 次兄のエーベ兄様からも罵倒される。

 このまま引き下がるのも悔しいから、ステータスを鑑定しておこうかな。

 まずは長兄のレオン兄様から……


【レオンハルト・ブレイズ・ファルケ】

 ファルケ帝国 第1皇子 10歳 男


 知力 50/60

 武力 60/84

 魅力 74/80


 剣術 B/A

 槍術 C/A

 弓術 F/C

 馬術 D/A


 火魔法 C/A


 話術 D/D

 算術 D/C

 芸術 D/B

 料理 G/F


 10歳で武力60はすごい、僕は20なのに……。

 それに剣術がすでにBとかヤバイな、絶対一緒に訓練とかしちゃダメなやつだこれ。

 あれ? 魅力がカンストしてないぞ。

 新しいパターンで謎が増えたな。

 よし、次は次兄のエーベ兄様だ……


【エーベルハルト・ブレイズ・ファルケ】

 ファルケ帝国 第2皇子 8歳 男


 知力 50/80

 武力 40/64

 魅力 74/80


 剣術 D/B

 槍術 E/D

 弓術 F/B

 馬術 E/D


 火魔法 C/A


 話術 D/A

 算術 D/A

 芸術 D/A

 料理 G/C


 知力の素質はエーベ兄様が上で、武力の素質はレオン兄様より劣っている感じ。

 こちらも魅力がカンストしてないな。

 うーん、魅力に関してはサンプルを増やして、じっくり検証するしかないかも。


「黙ってないで何か言えよ!」


 しびれを切らしたエーベ兄様が僕に命令してくる。

 ステータスを観察するのに忙しくて、兄様たちのことを忘れてた。

 何か言わなきゃ……。

 しばし考えていると、兄様たちの後ろに父上の正妃である皇后様が現れた。


「レオン、エーベ何をしているのかしら? クリストハルトは母を亡くしたばかりなのだから、優しくしてあげなさい」


 突然母親が登場してレオン兄様もエーベ兄様も固まっている。

 どうやら皇后様(継母)は、ぼくの味方みたいだ。


「母上、こんにちは」


 僕は継母にペコリと頭を下げた。


「はあ? 誰が母ですって? 私は、あなたを産んでいないわ。私のことは、皇后様とお呼びなさい!」


 あれー? 継母は味方じゃなかったみたいだ……。


「すみませんでした、皇后様」

「ふん! これだから卑しい平民の血は。あなたの黒髪、黒目は母親そっくりね。皇族は、金髪碧眼と決まっているのに」


 そんなことないだろ、随分と乱暴な意見だ。

 でも現在に限れば、父上、皇后様、レオン兄様、エーベ兄様の4人全員が金髪碧眼である。

 僕だけ黒髪黒目の仲間外れ……。

 早くこの場を離脱したいけど、その前に皇后様のステータスを確認しておこう。


【バルバラ・ブレイズ・ファルケ】

 ファルケ帝国 皇后 28歳 女


 知力 85/90

 武力 45/49

 魅力 79/85


 剣術 F/F

 槍術 G/F

 弓術 G/F

 馬術 D/D


 光魔法 S/S


 話術 C/C

 算術 A/A

 芸術 A/A

 料理 G/D


 皇后様も魅力がカンストしてないな、うーん7歳の僕がカンストしてるのに。

 てことは、魅力って生まれたときからカンストしていて、その後減ったりするのかも。

 いつか赤ちゃんのステータスを確認すれば、はっきりするかもね。


 さて、皇后様の能力値だけど、知力が高く優秀な光魔法使いってとこか。

 たしか帝国の筆頭聖女だったはずだ。

 しかも実家は、帝国の筆頭公爵家で商業に関する利権をほぼ独占しているらしい。

 僕が生まれる前は、他国との戦争が続き帝国の財政状況は、あまりよくないのだ。

 苦肉の策として帝国は、皇后様の実家から多額の借金をしているみたい。

 皇帝陛下である父上でも皇后様には、あまり強く出られないのだ。


「さあ、レオン、エーベ行くわよ」


 皇后様は、付き合ってられないといった感じで、きびすを返した。

 兄様たちも僕に嫌味な笑顔を向けて帰っていく。


「やれやれ、僕の味方は父上だけだな」


 転生前にパラスが悩んでいた、正妃の子ではない問題点。

 それを痛感させられた一日だった。

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