第2話 小悪魔でマッドサイエンティストな女神様(2)

「で、王族の第三王子には転生できそうなの?」

「大丈夫よぉ、パラスちゃんにまっかせなさーい。全財産ぶっこんで、激レアの王族転生チケットを確保してあるわぁ」

「やっぱり王族への転生って大変なんだな」

「そりゃそうよぉ、簡単に王族へ転生できたら、異世界が王族だらけになっちゃうしぃ」


 と、そこでパラスが白衣のポケットから、タブレットみたいなのを取り出した。


「転生先を決めるけどぉ、何か希望とかあるかしらぁ?」

「うーん、言語で苦労するのはイヤだな。日本語で話せて、文字がひらがな・カタカナ・漢字の国ってある?」

「多くはないけどぉ、いくつかあるわぁ」

「あるんだ!」

「他にはぁ?」

「そうだな、大人になる前に滅びたら困るから、それなりに強国で豊かな国がいいな」

「ふむふむ、あとは剣と魔法の世界でいいかしらぁ?」

「おお、それは絶対に外せないな!」

「検索っと……。1件だけヒットしたわぁ、でも……」

「どした?」

「うーん、正妃の子じゃないけど、仕方ないわよねぇ」

「側妃の子ってこと? まあ、選ぶ余地もないしな、大丈夫だろ」


 珍しくパラスが難しい顔をして悩んでる。


「まあ、でもあなたのことだから何とかなるでしょ」

「あまり期待しすぎないでくれよ。で、その世界の能力値ってどうなってるの?」

「基本能力は、知力・武力・魅力の三つで最高値は100、最低値は1。剣術や魔法その他技能の実力は、最高値がSSで、S・A・B・C・D・E・F・Gの順かにゃ」

「へー。自分の能力値って確認できたりする? どのくらい成長してるか把握しておきたいし」

「ステータスって心の中で念じれば表示されるわぁ。他人には見えないけどぉ。どうしても見せたい人がいるときは、手をつなげば見せることは可能よぉ」


 スラスラとパラスが説明してくれる。

 なんか仕事ができる女性って感じ。

 まあ、実態はマッドサイエンティストなんだろうけど……。

 そういえば、自分のステータスが見れるって、なんかゲームみたいだ。

 他人のステータスとかは、見れないのかな?


「なあ、パラス」

「なぁに?」

「他人のステータスって見れないの?」


 パラスがよくぞ聞いてくれましたって感じで、顔をにんまりとさせてる。


「そこ! そこなのよぉ! 『可能性は無限大』のチート能力は、自分の素質オールS以外に、他人のステータスも全部みれるってとこなのよぉ」

「人物鑑定みたいな?」

「うんうん。その世界で鑑定スキルは珍しくもないけど、限定的なのよぉ」

「例えば?」

「人物鑑定ができるのは教会にいる神官だけど、鑑定ができるのは人物のみ。商人は物品のみ鑑定可能で、薬師は薬草や完成品の鑑定ができるみたいな感じねぇ」

「なるほど」

「でねぇ、『可能性は無限大』は全部の鑑定ができちゃうのよぉ!」


 パラスが鼻息をフンフンさせて興奮してる。


「すごいな!」

「でしょでしょ! しかも他人の人物鑑定では、神官には現在の能力値しか見えないのに、『可能性は無限大』を使うと素質まで見えちゃうのよぉ!」

「おお、まさにチート」

「やり方はいろいろあると思うのよねぇ。前世のあなたみたいに自分のすごい能力に気付かずに、死んじゃう人も多いからさぁ」


 パラスが申し訳なさそうに下を向いた。


「てことはさ、その力を使って俺が、他人に対して才能に気付かせてあげることが、できるかもしれないよな?」

「うんうん、その人の人生を輝かせることが、できるかもしれないわねぇ」


 顔を上げたパラスが俺を見て微笑んでいる。

 可愛いな、おい……。

 この顔で変な言動さえしなければ、普通に女神に見えるのだが。


「そうそう、忘れるとこだったわぁ。アブナイ、アブナイ」

「どうしたんだ?」

「この書類にサインして欲しいのよぉ」


 パラスに一枚の書類を渡された。

 なになに……『私は、女神パラスの謝罪を受け入れ全てを許します。パラス様は、素晴らしい女神です』って、すごい都合のいいこと書いてあるな。


「おい、なにこの書類」

「えーとぉ、神様に出す始末書の添付書類みたいな感じかなぁ。これがないとパラスちゃん困っちゃうのよぉ。深く考えずにサインしてくれたら問題ないからさぁ」

「いや、問題ありすぎだろ! パラスの謝罪には、誠意が感じられないからさ」

「誠意かぁ、うーん……。じゃあじゃあ、異世界で役立ちそうな物を何か一つプレゼントするわぁ。パラスちゃんにできる範囲でぇ」


 パラスが微笑みながら俺をじっと見つめてる。

 不覚にも少しドキっとしてしまった。

 なんか顔が熱く感じるぞ……。


「あれぇ、なに赤くなってるのかなぁ? さてはパラスちゃんに惚れちゃったとかぁ?」

「はあ? そんなことないし!」

「ほんとかなぁ? ムフフ♪ あっ、でもでも、プレゼントっていっても、パラスちゃんが欲しいとかはダメだからねぇ」


 パラスが両手を交差させてバツを作った。


「数年前に女神様が欲しいって言う男がやたら多くてさぁ、それについていく女神もいたりしてぇ、深刻な女神不足になったのよぉ。で、神様から禁止令がでちゃったのぉ」

「なるほど……。俺は大丈夫だから、心配しなくていいよ」

「わかったわぁ。で、どうするのぉ? なにがいいかなぁ」


 ふむ、異世界で役立ちそうな物……って、あれしかない気がする。

 収納ボックス! まあ、いろいろな名称がありそうだけど、空間の中に大量な物を自由に出し入れできるあれ!


「収納ボックスって名称でいいのかな? 空間の中にたくさんの物が入るやつが欲しい!」

「了解よぉ、パラスちゃん三つ持ってるから、二番目によいものをあなたにあげるわぁ」

「それって、どのくらいの容量があるの?」

「あなたのいた世界でいうと、学校の体育館くらいかなぁ」


 かなりの大きさだとは思うけど、ドラゴンとかは入るのだろうか?

 捕まえられるかどうかわからないけど、そのくらいは余裕で入るくらいの、大きさがあったほうがよい気がする。


「一番よいやつだと、どのくらい入るの?」

「えへへ、パラスちゃんのお気に入りでさぁ、東京ドームが十個以上入るはず。入れたことないけどぉ」

「へー、すごいな!」

「でしょでしょ!」

「じゃあ、その一番よいやつをくれ」


 何言ってんだコイツって感じでパラスがフリーズしてる。


「ダ、ダメぇ。この前やっと手に入れたばかりでぇ、まだローンがめっちゃ残ってるのよぉ」

「いいかいパラス、よく考えてみて欲しい。今回の俺の転生に全てを賭けてるんだよね? 『可能性は無限大』が最高のチート能力だって証明するために」

「うん、パラスちゃん背水の陣よぉ」

「なら、成功率を上げるためにも、ここは妥協しちゃダメじゃない? 最高の装備で俺を送り出した方が絶対いいって。転生先で俺パラスのために頑張るからさ」

「パラスちゃんのために?」

「うん!」


 パラスがあごに右手をあてて悩んでる。

 あとひと押しだな。


「俺が転生先で成功して、『可能性は無限大』がパラスの世界で認められれば、ボーナスとか出ないの?」

「めっちゃ出るはずよぉ」

「なら、そのボーナスでローンは完済できるし、残った分でもっと良い収納ボックスが買えるんじゃない?」

「確かに、あなたの言うとおりかもぉ。うーん、でもぉ……」


 落ちそうで落ちないな。

 仕方ない、最終手段を使うか。


「一番よいやつをくれないなら、さっきの神様に出す書類にサインはできないけど、どうする?」


 パラスが目を見開いて俺を見てる。

 そして、ワナワナと手が震え出した。


「持ってけやがれ、こんちきしょー!」

「あはは、ありがとうパラス」

「ふん! さっさとサインしなさいよぉ」

「はいはい、あまり怒るなよ。可愛い顔が台無しだぞ」

「ぐぬぬぬ、これは先行投資ってことにしておくわぁ」

「助かる」

「で、あとは何か質問あるかしらぁ?」


 他に何かあるかな?

 能力値については、だいだい理解できたし。

 うーん……。

 あっ、素質について確認しておきたいことがあるな。


「素質の上限についてだけど、俺の素質Sは訓練して能力値がSまで上昇した後、さらに努力を重ねたらSSになったりしないのかな?」

「あー、あるにはあるわよぉ。限界突破っていうんだけどぉ、素質FがEに上昇したりとか」

「あるんだ!」

「でも、下位の素質ほど発生しやすくて、上位の素質となると難しくなるわぁ。素質SがSSになった例は過去にないのよねぇ」

「そっか……」

「SSにこだわるより、全能力をSにするほうが効率的だし、絶対に強いと思うけどぉ」

「確かに俺もそう思う」

「これでもう質問はないかしらぁ?」


 うーん……。

 もうないよな?

 転生したらパラスには会えないだろうし、ここで聞けるだけ聞いておきたいけど……。


「最後に質問いいかな?」

「なぁに?」

「転生した後、前世の記憶ってどうなるの?」

「ええっとねぇ、10歳くらいまでには思い出すはずよぉ」

「赤ちゃんのときからだったら、最高なんだけどな」

「あー、あまり小さいときから能力値が高いと怪しまれるのよねぇ。だから7歳から10歳くらいの間に、何か重大なことが起きたときに前世の記憶を思い出すことが多いのよぉ」

「そうなんだ」

「うんうん」

「了解、質問は以上かな」


 俺の質問が終わったことを確認すると、パラスがタブレットを操作して転生の準備に入ったようだ。

 いよいよだな、俺の新しい人生!


「あなたの転生先は、ファルケ帝国の第三皇子、クリストハルト・ブレイズ・ファルケ。ちなみに、皇帝の息子だから王子じゃなくて皇子だよぉ」

「なるほどね」

「じゃあ準備は、いーい?」

「おう! いつでもいいぜ」


 パラスがタブレットの画面をポチっと押すと、俺の体がまばゆい光に包まれた。


「このチート能力を使って、今度こそなりたい自分になるのよぉ」

「うん。ありがとな、パラス。俺、頑張るよ」

「うんうん。頑張ってねぇ、主にパラスちゃんのボーナスのために!」


 パラスが目もとにVサインを作ってポーズをとってる。

 最後までふざけたヤツだ。

 何か言い返そうと思ったけど、だんだん意識が遠のいていって、俺の目の前が真っ暗になった。

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