第5話 突然の来訪者

 初めて火魔法が使えるようになってからは、毎日が順調だ。

 同じ要領で水・風・土・光の初級魔法を発動させることに成功した。

 ちなみに師匠の力は借りていない。

 魔術書を読みながら一人でこっそりと練習したのだ。

 魔術師団長を務める師匠は忙しい人なので、困ったときにのみ頼ることに決めた。

 さて、現在僕のステータスは、こんな感じに成長している。


【クリストハルト・ブレイズ・ファルケ】

 ファルケ帝国 第3皇子 7歳 男


 知力 71/100 (70から71へ上昇)

 武力 21/80 (20から21へ上昇)

 魅力 99/99


 剣術 G/S

 槍術 G/S

 弓術 G/S

 馬術 G/S


 火魔法 F/S (GからFへ上昇)

 水魔法 F/S (GからFへ上昇)

 風魔法 F/S (GからFへ上昇)

 土魔法 F/S (GからFへ上昇)

 光魔法 F/S (GからFへ上昇)

 闇魔法 G/S


 話術 C/S (DからCへ上昇)

 算術 D/S

 芸術 F/S

 料理 G/S


 少しずつだけど、確実に成長している。

 こうして数値で確認できると、また頑張ろうって気持ちになれるのが良いと思う。

 闇魔法だけは、帝城の書庫に魔術書が無いらしく、手つかずだが仕方ない。

 いつか闇魔法の魔術書が手に入ったら、是非挑戦してみようと誓った。

 朝食を食べ終えて、自分の部屋に戻りまったりとしていると、廊下がやけに騒がしい。

 なにかあったのかな?

 まあ7歳の僕に手伝えることもないので、魔術書を読むことに集中する。

 そして、昼食前の時間に父上から呼び出されたので、父上の執務室へ移動した。




☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆




 父上の執務室に到着すると、扉の両脇に立っていた衛兵に案内されて室内に入る。 


「父上、お待たせいたしました」

「おお、クリストハルトよ。こっちにおいで」


 父上に手招きされて近づいていくと、父上の後ろに誰か隠れている。


「リゼット、今日から兄になる第三皇子のクリストハルトだよ」


 父上が優しい声で僕を紹介してくれた。

 今日から僕が兄? なんかいきなり弟か妹ができたようだ。

 僕がびっくりしていると、入り口の扉が開いて皇后様と兄上たちが入ってきた。


「待っておったぞ。バルバラ、レオンハルト、エーベルハルト。こっちに来てくれ」


 父上が皇后様と兄上たちを近くに来るよう促した。


「ここで結構です。レオンとエーベに呪いがうつったら大変ですから」

「おいおい、呪いって……」


 皇后様の呪い発言に、父上が困惑している。


「まあ、子供たちにも状況を説明したいから、そのまま聞いてくれ」

「早くこの部屋から出たいので、手短にお願いしますね」


 父上の言葉に皇后様は、イラついているようだ。


「今朝、帝都の隣にある我が弟カールハインツの公爵領にて事件が起きた。弟とその家族が暮らす邸宅から毒物が検出され、ここにいるリゼット以外全員の死亡が確認された」


 さっき廊下が騒がしかったのは、この事件のせいだったのか。

 自分以外の家族全員が亡くなるなんて、不幸すぎる。

 この子は、独りぼっちじゃないか。


「レオンハルト、エーベルハルト、クリストハルト。お前たちにとってリゼットは、いとこにあたる。祖父母も他界しており、リゼットは身を寄せる場所がない。よって、わしが養女として引き取ることにした」

「陛下、本気なのですか?」


 父上の決意に対して、皇后様が問いただした。


「勿論本気だ。今日からリゼットを第一皇女とする。なお、リゼットは6歳なので、お前たち3人の妹になる」


 僕の一つ年下か。兄は妹を守ってあげないとな!


「ほらリゼット、隠れてないで兄たちに顔を見せてあげなさい」


 父上が促すと、リゼットがおずおずと姿をあらわし、ペコリとお辞儀した。


「リゼットです。どうぞ、よろしくお願いいたします」


 リゼットが顔をあげると、僕に衝撃が走った。

 そこには、超絶美少女な妹が降臨していたのだ。

 長く美しい銀髪に、くりっとした愛くるしい碧眼、肌は雪のように白く、前世を含めてもこんな可愛い子は見たことがない。

 兄上たちの方を見ると、僕と同じ衝撃を受けたようで、リゼットを見つめながらフリーズしている。

 皇后様は冷静に、リゼットを下から上へと視線を動かし値踏みしているようだ。

 

「陛下の決意は固いようですね、承知しました。皇女は婚姻等で政治的に利用価値もありますし、私も賛成です」

「おお、同意してくれるか」

「はい。ですが、リゼットをこの帝城に住まわせるのは反対です。レオンとエーベに呪いがうつったら大変ですから」

「だから呪いではなく、死因は毒物だと言っておろう」

「絶対に呪いではないと、断言できますか?」

「そ、それは……」

「そういうことです。帝城内でも呪われた子として噂が広まっており、この城で働く者の親である各貴族家からも反対の声が上がり始めています」

「それは本当なのか?」

「はい、どこの貴族家でも自分の子供が大切ですからね。では、私はこれにて。レオン、エーベ行きますよ」


 皇后様は言うべきことだけ言って、父上の返事も聞かずに部屋を出て行ってしまう。

 兄上たちは、慌てて皇后様の後を追うが、名残惜しそうにチラチラと後ろを振り返りながら退室した。

 リゼットは下を向いてしまい、父上も難しい顔をして黙っている。

 まあ話をまとめると、リゼットの身の回りの世話をするメイドがいないということだ。

 メイドや執事など帝城内では、信用ある者しか雇えないので全員が貴族の子女である。

 親が反対しているとなると、諦めるしかない。さて、どうしたものか……。

 こうなったら僕が面倒を見ればいいのでは? 問題は、どこに住むかだな……。城下町とかに住むとなると、警備の問題もあるし。

 う~ん、どこかないかな……。

 あっ! あるじゃん、父上の許可が取れればだけど。


「父上! 名案があります」

「ほう、言ってみよ」

「迎賓館の新館は、完成したのですよね?」

「うむ、つい最近だが」

「では、旧館の取り壊しを延期して、そこにリゼットと僕が一緒に住んでもよいでしょうか?」

「旧館に二人でか?」

「はい、妹の世話は兄である僕に任せてください」

「うーむ……」

「これ以上に良い案があれば従いますが、果たしてあるでしょうか?」


 しばらく父上は無言で考え込んでいたが、なにか決心したように僕を見た。


「迎賓館旧館の使用を許可する。クリストハルトよ、リゼットのことを頼むぞ」

「はい、父上」

「それと、必要なものがあれば遠慮なく言うように」

「とりあえずは、朝昼晩の食事と午前午後のおやつをお願いします。後はリゼットと僕の着替えくらいでしょうか」

「手配しておこう。足りないものがあれば連絡係を置くので、その者に言うように」

「承知いたしました、父上」


 そして、僕はリゼットの手を取り、父上の執務室を後にした。

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