日常1-2 におい
※このシリーズ『日常』は、第一部第一章終了後を想定した、ストーリーと直接的なかかわりがない、いわゆる外伝的なものです。多少登場人物の時系列的におかしいところがあるかもしれませんが、平行世界線として見てください。
*****
―――ある昼休み。僕、島野洸太郎と泰河は廊下でいつも通り井戸端会議をしていた。
「あっついよな、最近」
隣に立つ泰河が首からかけたタオルで汗を拭っている。顔立ちが整っているため、それだけでも絵になるのが少し羨ましかった。
「だね。最近台風が通り過ぎてってから急にムシムシするようになって」
「まじでこの時期のアップが地獄なのよ奥さん」
「奥さんじゃないし。っていうかなんで奥さん口調?」
「まあまあ」
「やかまし」
「ふふん」
どこか満足した様子の泰河は、少し濡れた髪の毛をタオルでわしゃわしゃする。
「……ん?」
「どした?」
「泰河、シャンプー変えた?」
「……は?」
泰河の口ぶりには呆れの感情が含まれていたが、その顔はあからさまに図星だったようで。
「いやいや、なんでわかるんだよ! だって昼休み前の体育で汗かいたし、汗拭きシートも使ったし。っていうかそもそも、何もなくても気づくわけないだろ!」
「だって、わかりやすいし。他の人は何も言ってなかったの?」
「言われるわけないだろ。そもそも野郎のにおいで充満してるんだから。まあ、合体の時ほどではないけどな」
「ふーん」
「……お前、その内痛い目見るぞ」
「痛い目?」
「ほら、ノンデリなことを女子に言いそう」
「ノンデリって?」
「ノンデリカシー。デリカシーとか配慮がないようなこと。ほら、もしこーたが将来付き合った人がいたとして、その人が汗のにおいを気にしてる人だとしよう。その時に汗臭いねとか言いそうだなって」
「そ、そんなこと言うわけないでしょ!」
頭の中で泰河の設定どおりに思い浮かべたシチュエーションの上からバッテンをつける。
「……それもそうか。まあでも、それ以外でもそれ関連のことはあるからな」
「……例えば?」
「さっきの発言。女子にしたらセクハラだぞ?」
「……」
僕は一瞬、ショッピングモールに遊びに行ったあの日のことを思い浮かべたけど、すぐに振り払った。
「え? まさか心当たりあんのか?」
「……ない」
「うわ、マジか」
「ないって!」
「まあまあ、ムキになるなって。で、誰?」
「誰? もない!」
「まあ大体想像がつくけどな」
意味深に向けた泰河の目線を追うと、教室の黒板を日直の大間さんが消していた。
「……な?」
「な? じゃない!」
僕の弁明の審議を確かめることもなく、泰河は高笑いしながら自分の教室に帰っていった。
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